コラム
2010年08月13日

落日の貯蓄大国

石川 達哉

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かつては日本の家計貯蓄率が高いことが「国際的な常識」であったが、今ではそのことが引き合いに出されることさえもきわめて少なくなっている。昨年末に内閣府から2008年実績値が公表された際も、家計貯蓄率が遂に日米間で逆転したという事実は話題にも上らなかったほどである。

しかし、OECD加盟32カ国のうち16カ国では、すでに2009年の家計貯蓄率が公表されており、これらを含む28カ国の最新実績値で比較すると、日本の2.3%という水準は、なんと下から5番目に位置している。
 
OECD28ヵ国の家計貯蓄率
日本の家計貯蓄率はもはや高くないとか、国際的には中位グループの水準だとかいう認識は、2、3年前までであったら、「新しい常識」として通用したかもしれない。しかし、変化の激しい現実の前では、すでに色褪せている。現時点では、日本の家計貯蓄率は国際的に見て低いと認識すべきなのである。

各国の家計貯蓄率を詳細に見ると、10%を上回っているのはフランス、スウェーデン、スイス、ベルギー、ドイツ、オーストリア、スロベニアの7カ国にとどまっている。それでも、世界的な金融危機が生じた後、先進国の家計は消費を抑制することによって、目減りした資産の回復に努めている。だから、大半の国で家計貯蓄率は上昇している。日本においても、消費は一時期減少したが、家計貯蓄率の上昇は起きなかった。貯蓄の源泉となるべき可処分所得がそれ以上に減少したからである。実は、可処分所得は10年前と比べても増えていないのだ。前述の28カ国の中でも、そのような国は日本だけである。

日本の高齢化は進み方が際立って速いとしても、過去10年間、可処分所得が足踏み状態で、家計貯蓄率も低下基調を続けたという事実はあまりにも重い。

もうひとつ、驚くべき事実を付け加えれば、家計の保有する正味資産(金融資産、不動産などの資産合計額から負債額を控除した差額)が10年前と比べて減っているのも、統計が利用可能な国の中では、日本のみである。家計だけでなく、企業や政府も併せた日本全体に議論の対象を拡張しても、その帰趨は変わらない。簡単に言えば、フローの面でも、ストックの面でも、世界における日本の貯蓄は、規模を縮小させているのである。

かつて、「ジャパン・マネー」が世界の金融市場を席捲するかのように言われたことがあったが、同じ円高下でも当時と現在の状況とは違う。それどころか、日本の「小国」化は着実に進行している。我々はこのことを肝に銘じたうえで、他国との付き合い方を考えた方がよい。
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