2015年09月07日

住宅着工が急回復。訪日外国人の増加がホテル・小売市況を下支え-不動産クォータリー・レビュー2015年第2四半期

基礎研REPORT(冊子版) 2015年9月号

竹内 一雅

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2015年4-6月期は輸出の大幅減少と消費の落ちこみのため、実質GDPはマイナス成長になった。そうした中で不動産市況は、住宅着工が1年半ぶりに100万戸台へと急回復するとともに、賃貸市場ではAクラスビル賃料が大幅に上昇した。急増する訪日外国人旅行者はホテル市況の活況をもたらすだけでなく、百貨店など都心の小売市況をも下支えし始めている。

 

1―経済動向

2015年4-6月期は、日経平均株価が15年ぶりに2万円台に乗せるなど株式市場の活況に加え、上場企業の7割が前年同期比で経常増益となるなど企業収益も好調で推移した。一方、海外ではギリシャ債務危機が再燃するとともに中国の上海総合株価が大きく下落するなど不安定な動きが見られた。
   内閣府が8月17日に公表した2015年4-6月期の実質GDP成長率は、海外経済の減速で輸出が減少したことと消費の落ちこみなどから、前期比▲0.4%(年率▲1.6%)と3四半期ぶりにマイナス成長になった。
   住宅着工戸数は、消費税の駆け込み需要の反動減が一巡し回復を始めた。2015年6月は前年比+16.3%の大幅増で年率換算値は103.3万戸と1年半ぶりに100万戸を超えた[図表1]。特に分譲マンションは前年比で+82.8%の大幅な増加だった。首都圏の分譲マンション新規発売戸数は、リーマンショック直後の2009年に次ぐ近年で最も低い水準で推移している。



 

2―地価動向

大都市圏を中心に、都心部の地価は引き続き上昇傾向にあるが、全体的に上昇地点の増加ペースは緩やかになりつつある。地価LOOKレポートによると、特に地方圏では上昇地点の構成比が減少する一方、横ばい地点の構成比が増加し始めた。野村アーバンネットによると、東京都心部の商業地では地価の回復が顕著となっている。中央区銀座では前年比+12.8%、港区北青山では同+42.9%の大幅な上昇だった[図表2]。



 

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス

2015年前半には品川シーズンテラス(延床面積20.6万m2)や東京日本橋タワー(同13.7万m2)などの大規模ビルの供給があり、これらのビルが空室を抱えて竣工したため、東京都心Aクラスビルの空室率は第1四半期に4.8%に上昇し、今期も横ばいとなった[図表3]。Aクラスビルの賃料は、前期比+7.1%と大きく上昇した一方、Bクラスビルは前期の大幅上昇の反動もあり▲4.6%の下落だった。
   東京都心部では中型ビルでも空室率の低下が続いているが、大規模ビルでは、渋谷区の空室率が1.25%、千代田区が2.51%と、ほぼ空室がない状況にまで低下してきた。なお、2014年秋以降、東京都心5区では賃貸需要の増加ペースが落ちているが、今後の竣工予定ビルへの内定が進みつつあり、現時点では強い懸念を持つ段階にはない。
   全国的にもオフィス空室率の低下傾向は続いている。その中で特に注目されるのが、この秋に大規模オフィスビルが複数供給される名古屋で、今後の市況の動向に注目が集まっている。



 

2│賃貸マンション

東京都区部の賃貸マンション賃料は上昇基調が続いている[図表4]。札幌、福岡でも上昇基調にあるが、需給問題から大阪、名古屋、仙台などでは横ばい圏が続いている。
   東京都心部の高級賃貸マンションの空室率はすでに5年近く改善が続き、それに応じて賃料は昨年から急速に上昇している。今期は前期比▲4.4%の大幅な下落となったが、一時的な要因のようだ。



 

3│商業施設・ホテル・物流施設

2015年4-6月期の小売業販売額は、前年の消費税増税後の反動減の影響で前年比+2.9%と高い上昇となった。ただし、4月から6月にかけて次第に増加率は低下している。
   大都市の百貨店の販売が堅調で、円安などを背景にした訪日外国人による購入が下支えしている。日本百貨店協会の調査では、外国人旅行客による免税品の売上高は免税品目の拡充もあり6月には前年比で+307.1%の大幅な増加となった[図表5]。大阪の大丸心斎橋店では外国人による免税品売上げが店全体の4割を超す日もあるという。
   東京都心部での販売好調を背景に、東京の商業エリアの店舗賃料は上昇基調にある。1階店舗の募集賃料(2015年第1四半期)は、銀座で前年比+33.1%、表参道で同+25.6%だった。
   6月の訪日外国人旅行者数は前年比+51.8%増の160万人(1-6月で914万人)となり、2015年は一年間で1,800万人を超えるのはほぼ確実となっている[図表6]。訪日外国人に加え日本人の国内旅行も増加に転じたことから、国内のホテル稼働率は近年で最も高い状況が続いている。宿泊旅行統計によると、延べ宿泊者に占める外国人比率は過去の6~7%程度から15%近くにまで上昇してきた。
   首都圏・近畿圏ともに大型物流施設への需要は強く、東京圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率は▲0.4ポイント下落し、近畿圏では▲1.2ポイント下落した[図表7]。東京圏では東京ベイエリアと外環道エリアで空室率が0.0%になったようだ。今後、物流施設の大量供給が予定されているが、2015年第4四半期に関しては既に供給見込み床の30%のテナントが内定しているという。




 

4―J-REIT(不動産投信)・不動産投資市場

2015年第2四半期の東証REIT指数(配当除き)は、長期金利の不安定な動きやギリシャ債務危機などを背景に続落となり3月末比▲3.3%下落した。上半期累計では▲5.0%下落し、好調な株式市場とは対照的にJ-REIT市場の調整局面が長期化している。しかし、市場のファンダメンタルズは着実に改善しており、市場全体の含み益は8,151億円に拡大している。
   日経不動産マーケット情報によると、2015年4-6月期の国内不動産取引額は前期比▲46%の大幅な減少だったが、売買額が減少する時期であるため第3四半期には再び回復すると見られる。


 

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竹内 一雅

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(2015年09月07日「基礎研マンスリー」)

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