コラム
2011年12月06日

世論に博打を打たせてはならない

中村 昭

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暦も師走に入りますと、私はいつも悩み始めます。と言いましても、特段、難しいことに悩んでいる訳ではありません。毎年正月休みに行う家族ゲーム大会の、ゲーム選定に楽しく頭を悩ませているのです。

当初は、お定まりのトランプゲームから始まりましたが、『ドンジャラ』(子供用簡易麻雀型ゲーム)へと進化し、一時TVゲームに迂回した後、近年は有名どころのボードゲームでの遊びに落ち着いてきました。評判の良いボードゲームをいくつか買い求めて、親子四人で順次プレーしていきます。これで、ほぼ間違いなく、家族の思いやりや助け合いをかなぐり捨てた、白熱の長時間真剣勝負の展開が約束されることとなります。

また、この時期は、お年玉効果により、子どもたちの保有金融資産がピークにあります。そこで、保有資産の市中放出による消費の拡大を企図して、“博打”を実施してきました。これで、白熱度はさらに高まることとなります。

もっとも、幼少期からのコンプライアンス教育は大切でしたので、刑法185条の賭博罪に抵触しない範囲、すなわち『一時の娯楽に供する物』に賭けの内容を制限してあります。最初のうちは、お菓子のやりとりでしたが、子どもたちの成長につれてリスク許容度も深化してきましたので、彼らが成人した現在では、居酒屋で一杯へと高度化を遂げています。

さて、我が家では、どちらに転んでも楽しい博打を楽しむだけなのですが、最近は大切なことが博打化してしまっているのではと危惧しています。この場合の博打とは、賭博という意味ではなく、一か八かのまぐれ当たりを狙うという意味のほうです。

今、日本が直面している課題には、その解決の方向について、世論が大きく二分している難問が多くあります。TPP加入問題、原子力エネルギー問題、社会保障と税の一体改革のどの課題も、賛否が対立しており、コンセンサスが得られたとは言い難い状況のまま留まっています。その原因のひとつとして、これらの問題を判断する際に、判断基準となるべき情報の開示が、あまりにも不十分であることがあげられます。

TPP加入問題をみても、その経済効果について、政府より試算は示されています。しかしながら、マクロ経済効果を分析した内閣府試算、農林水産物への悪影響を示した農水省試算、基幹産業にとっての必要性を示した経産省試算という、主張の異なる三種類の試算が単純に並列して開示されているだけです。

物事に対しては、様々な考え方があるので、当然、賛否双方の意見は存在しますが、その賛否の対立を踏まえたうえで、メリット・デメリットを明確にした統一見解を示していくという困難な作業こそが、政治に求められる役割であると思います。統一見解が示されず、バラバラの情報を放置したままで、世論を問われても、世論がバラバラになることは必然といえます。

しかも、恐ろしいことは、この場合、皆が同じ情報にもとづいて判断をしているのではないということです。

各人が、自分の好みにあう都合の良い情報だけにもとづいて判断をすることは、つまるところ、好き嫌いによる選択と一緒であるといえます。さらに、好き嫌いによる選択とは、丁か半かを選ぶこととあまり大差は無く、まさに博打と一緒であるといえましょう。

人々が同じ土俵で判断をくだすために、政府内の意見対立の困難を乗り越えて、重要課題に対する丁寧かつ統一された情報の作成と公開が急務であると考えます。

それなくして、国民に判断を求められても、国民ができるのは博打だけです。どちらに転んでも楽しい博打とは違って、子ども達の将来を左右する大きな課題への判断を、絶対に博打にしてはならないと思います。
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