コラム
2011年07月14日

カバード・ボンド研究会報告書の公表について

金融研究部 取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長 德島 勝幸

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日本政策投資銀行が事務局を務め、メガバンクや証券会社、学識経験者等からなるカバード・ボンド研究会は、7月7日に『カバード・ボンド研究会 とりまとめ』を公表している(http://www.dbj.jp/pdf/investigate/etc/pdf/book1107_03.pdf)。この研究会にメンバーとして参加した経緯もあり、研究会報告書の内容について、個人的な考えを含め概略を紹介してみたい。

カバード・ボンドとは、欧州を中心に広く普及している担保付社債の一形態である。代表的なものとしてドイツのファンド・ブリーフ債があり、これについては古くプロイセンの時代にまで起源を遡ることができるとすらされる。他の欧州諸国においては、類似のスキームが様々に存在してきたものの、近年、法的に整備されたこともあって発行が急増している。特に、1995年にドイツでジャンボと呼ばれる形で類型化されたカバード・ボンドが発行されるようになって、発行額が急増し市場が拡大している。

カバード・ボンドの基本的な仕組みは、日本の担保付社債とは必ずしも同一のものではなく、発行体が金融機関に限定されている。金融機関が普通社債を発行する際に、信用力の高い担保資産のカバープールを付すことで、債券の信用力を当該金融機関の信用力以上に高めることを可能にしたものである。したがって、社債権者はカバーブールに対しても請求権を有することから、万一、債券の発行体である金融機関が破綻しても、金融機関及びカバープールの双方に弁済を請求することが可能となる(ダブル・リコース)。

欧米の発行例では、カバード・ボンドそのものが法制化されている場合と、証券化の手法を応用したストラクチャード・カバード・ボンドのニ種類の形態が見られており、当然、前者の方がスキームの安全性が高く投資家の安心感は強い。日本では、既に2008年当時に新生銀行が住宅ローンを裏付けにしたストラクチャード・カバード・ボンドの募集を検討していたが、サブプライム問題の拡大によって証券化という手法そのものが否定的に見られようになったことから、最終的には発行を断念せざるを得なかったようである。

今回の報告書では、カバード・ボンドの発行者となる金融機関の資金調達ニーズと、購入者である投資家の運用ニーズとをすり合わせて議論した結果、長期的な観点からの資金調達・運用手段として有用であるという共通認識に至ったものの、起債市場におけるスプレッド水準等を考える中では、現時点で投資家の購入ニーズは必ずしも強くないとされている。特に、ストラクチャード・カバード・ボンドに関しては、証券化手法に対する忌避感が強いために、市場の拡大には法制化が必須であるとされる。即ち、証券化の手法を採用することで投資家の分析負担が高まり、それに見合うスプレッドを上乗せしたのでは、発行体である金融機関から見ると、担保プールを提供するメリットがなくなってしまうのである。

法制化以外にも、導入に際しての課題が複数提起されている。まず、現状でも社債市場における流動性が乏しいのに、カバード・ボンドの流動性が十分に確保できるか。また、その結果として、適切な時価が入手できるのか、という懸念がある。この点については、普通社債と同様に、引受主幹事証券によるマーケット・メイクの努力が不可欠であるとともに、発行ロットを大きくする等の工夫が必要だろう。また、日本証券業協会による店頭売買参考統計値や有力な債券市場インデックスの対象銘柄として含めることも有効だろう。

次に、適格担保資産としては、投資家や格付会社といった担保プールの分析を行う市場参加者の分析能力・状況を考えると、公的セクター向けの融資債権や住宅ローン債権といった信用懸念の小さな債権を集めることが適切であり、将来的には、対象とする金銭債権の年限・償還形態・契約等標準化を行うことも有意義であろう。

欧州のカバード・ボンドにおいては、保険会社や年金が有力な投資家となっているものの、現在の日本におけるタイトなスプレッド環境を考えると、長期や超長期の年限で年金・保険といったセクターが積極的に投資対象とすることは考え難い。金利変動のボラティリティが大きくなった局面では、容易にスプレッドが消し飛んでしまうために、超長期年限では国債への投資を優先する可能性が高いのではないか。むしろ、中期年限において、金余りに困る地域金融機関の投資ニーズが大きいのではないかと推測される。カバード・ボンドに対する自己資本比率規制上の枠組み次第ではあるが、発行体が金融機関であること、担保プールが優良な資産で構成されていることを考えると、リスクウェイトは極めて小さくなる可能性が高いと期待できる。そのため、地域金融機関にとって、有力な投資対象になるのではなかろうか。

既に、欧州で一般化されているカバード・ボンドは、ECBによる買入対象とされているし、米国でもカバード・ボンドの法制化に向けた法案が議会に提出されている他、韓国でも法制化に向けた動きが見られる等、日本の置かれている立場は周回遅れに近くなっている。市場参加者はこういった危機感を共有し、早急に法制化を含めたカバード・ボンド市場の創設に向けて、より具体的な取組みを開始する必要があると思われる。
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金融研究部   取締役 研究理事 兼 年金総合リサーチセンター長 兼 ESG推進室長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
債券・クレジット・ALM

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【カバード・ボンド研究会報告書の公表について】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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