コラム
2009年09月10日

住宅系ファンドの将来性を考える視点

  松村 徹

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J-REIT(不動産投信)や私募ファンドは、分譲マンションと同等の基本構造・設備を持つ都市型賃貸マンションという新市場を開拓した。これにより、従来の小規模・安価・安普請のアパートやワンルーム・マンションに飽き足らなかった、都心居住志向の強い若者やDINKSなどの賃貸需要が顕在化した。ところが、多くの機関投資家やレンダーがリスク過敏状態に陥っている不動産金融市場において、住宅系ファンドに対する評価はオフィスビル系ファンドよりも明らかに低い。これは、新市場ゆえの透明性の低さに加え、低い参入障壁で粗製濫造されたとみられる物件の品質やファンドの運営に不信感があること、新興企業の多いスポンサーや運用会社の信用リスクが問題視されていることが大きな理由だろう。

確かに、立地選定の明らかなミスや割高な価格での購入、荒っぽいリースアップのやり方も散見されるが、これはオフィスビル系にもないわけではなく、住宅系をことさら低く評価する点には異論がある。東京都心の高級賃貸マンション市況は、オフィスビル同様大きく崩れているものの、ファンドで中心的な月額賃料10万~20万円クラスの賃料動向はオフィスビルよりもずっと安定している。J-REITが開示する鑑定評価の期待利回り(キャップレート)も、オフィスビルや商業施設ほど変動は大きくなく、今後の上昇(価格の低下)も限定的と考えられる。

また、大都市における生活者の意識が、賃貸マンション需要を拡大させる方向に変化している点にも留意すべきだ。まず、雇用の不安定化などで国民の生活防衛意識や金融リテラシーが高まる中、住宅や自家用車の所有にこだわらない生活者が増えている。さらに、最近の分譲マンションへの定住志向の強まりが、住まいのステップアップが困難化したことによる「住み切り(購入した住宅に生涯住み続ける)」志向の強まりという側面を持つこともポイントだ。このことは必然的にマンション購入に慎重な人々の増加と同時に、優良賃貸マンションを志向する人々の増加を意味すると思われるからだ。供給面をみても、ファンドへの転売を狙った安易な賃貸マンション開発が影を潜める一方、電鉄会社など大手事業法人の新規参入が続いており、優良物件の供給増加が期待できる。

世帯構造の変化で、東京都の賃貸住宅需要は穏やかな縮小傾向が続くと予想される。しかし、以上のような資産特性と生活者意識の変化等を踏まえれば、ファンド市場の混乱が終息した後には、賃貸マンションが優良な投資セクターのひとつとして再評価される可能性が高い。豊かな生活とは、家計のリスク負担力やライフスタイルに応じて、賃貸・分譲を問わず住まいを自由に選択できることではなかろうか。賃貸マンションセクターに残された最大の課題は、持ち家取得に偏重した政府の住宅政策の見直しである。たとえば、税制優遇などの支援措置によって賃料の下方修正が実現すれば、需要の急増が期待できるだろう。少なくとも、持ち家志向か借家志向かを二者択一で問う陳腐な世論調査は止めにして、多様な住まい方のニーズを問うて欲しいものだ。

(注)「不動産経済ファンドレビュー」2009年9月5日号に寄稿した内容を加筆修正したものです。

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