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- 「疑問多い米ストレステスト」の見方
コラム
2009年05月18日
5月7日、FRBを始めとする銀行監督機関は、銀行持ち株会社である大手19社の健全性審査(ストレステスト)の結果を公表した。この特別検査は、バブル破綻後に日本で行われたものとは異なる。日本のケースでは厳格な資産査定による不良資産の分類を実施、資本不足行に公的資本注入を行ったが、今回のストレステストでは、経済の下ブレを前提に、昨年末の資産をもとに今後2年間の損失発生額を推定、2年後に十分な資本を有しているかを検証した。ローンを中心とした日本の金融機関と異なり、米国では証券化商品からの損失が問題視されていることもこうした手法の背景となっている。
公表結果では、来年末までの損失総計を全19社で約6千億ドルと見積もり、ここから今後2年間の収益等を差し引いて算出した資本不足額に、今年に入ってからの資本調達等を加味し、10社で計746億ドルの資本不足が生じる。なお、資本余力の充足基準としては「6-4基準」(中核的資本であるTier1で6%、そのうち普通株式が4%)を用い、「ほとんど全ての金融機関でTier1資本は仮定された経済の悪化時の損失を吸収できるものであったが、19社のうち10社でTier1資本のうち普通株式資本(4%と設定)の不足が生じる」とした。最大の資本不足はバンカメで、不足額が339億ドルと突出、ウェルズ・ファーゴ、シティと続く。資本不足の各社は、1ヵ月以内に資本調達計画を策定し、6カ月以内にその計画を実施しなくてはならないため、公表後、各社では相次ぎ資本増強に着手した。
今回のストレステストは、2/10にガイトナー財務長官が発表した包括的金融安定化策のうちの資本注入策(CAP)に関連して行われたものであり、すでに1000億ドル余と残額の少なくなったTARP(不良資産救済プログラム)枠を検証する意味合いを持っていた。結果としての746億ドルの不足はこの範囲内に収まるもので、政府は、当面議会の反対の強い資金枠増加の要請を避け得た。
一方、金融危機以降の市場では、住宅価格下落が加速する中で、今後、金融機関の損失がどこまで拡大するのか計りかねた状況にあり、今年に入ってからは、金融機関の損失処理と自動車問題が市場の重荷となっていた。今回、景気下振れ想定の中での損失額が示され、その資本不足額が金融安定化法下の枠内に留まったことも一定の安心感を与えた。
しかし、上記のように、2年後の資本不足推計という作業には多くの仮定や前提を有し、“恣意的な”動きがあったとして疑問が投げかけられるなど、ストレステストを見るにあたって考慮しておく点は少なくない。
第一に、2月時点に想定した経済の下ブレシナリオ(実質GDPで2009年マイナス3.3%、2010年0.5%等)は、その後の実体経済の急速な悪化で「下ブレ」を想定したとは言いがたい。ただし、これは、見通しの甘さであって、「下ブレ」シナリオ想定下の損失見積もり額自体の信頼性にかかわるものではない。
第二は、損失額の算出時に今後の収益を過大に見積もったとの疑念。金融機関サイドでは引当金の減額・トレーディング益等で1-3月期の収益増をはかり、それを背景に今後の収益を上乗せ、資本不足を圧縮したとの報道もある。
第三は、19社の資本格差の明示により、資本不足とされた金融機関への市場の目が厳しくなることだ。CDS保証料や市場調達金利等の格差拡大など、「公的格付け」の意味合いは小さくない。半面、資本が十分とされた金融機関では、ゴールドマンサックスのように公的資金の早期返済に追随の意向を示すところもあり、こうした動きが広がる可能性もある。しかし、貸出し余力を回復する前の無理な公的資金の返却では、貸し渋りの状況は改善できない。また、「普通株」発行ラッシュは、当該株式価値の希薄化や調達額自体が市場の負担となりつつある。
第四は、資本不足の解消に重点が置かれ、不良資産の圧縮促進策とはならない可能性があることだ。不良資産売却には損失拡大がつきまとう。この点、バーナンキ議長が、損失推計にあたってキャッシュフローを用いた資産評価を行い、市場価格や清算価格を用いなかったとした点も気掛かりである。日本の例を見ても、不良資産売却が先送りされれば、問題の長期化が進もう。
こうしたポイントを踏まえてストレステストの結果を振り返ると、「下ブレ」シナリオで“前例のない陣容”で検証した結果である約6千億ドルの損失については、下ブレシナリオの「標準シナリオ化」により、一層、「現実味」を帯びた数値に近づいたとも言えそうだ。しかし、2010年までの営業収益等による損失吸収見込み額(3629億ドル)については今後下方にブレないかを検証していく必要があろう。そして、これら両者の想定値の上に計算された746億ドルの自己資本不足額は、今後の実績トレースの中でかなりのブレを想定しておく必要があろう。
特に、この746億ドルは、今回、新たに普通株ベースのTier1を4%とする基準を元に算出された数値である。いうまでもなく、どのような基準を取るかによって、資本不足額は大きく左右される。バーナンキ議長は「普通株重視の考え方は、これまでも市場にあり、銀行持ち株会社規則でもTier1の支配的割合(dominant portion)を占めるよう求められている」と説明する一方、「“6-4基準”は新たな標準規制となるわけではない」としている。しかし、大手19社で適用された事実が、米国で活動する外国銀行に与えた影響は大きく、既に外銀の資本調達行動にも普通株重視の動きが出ている。
一方で、普通株で4%という基準を採用した結果、資本不足額が金融安定法の資金残枠の範囲にうまく収まったことも事実であり、そのため、普通株ベースのTier1基準を“恣意的に”採用したとの見方が出てくるのも止むを得ないところであろう。ストレステストが政府・金融機関の双方の妥協による出来レースとの見方が絶えない背景もこうした点にある。
公表結果では、来年末までの損失総計を全19社で約6千億ドルと見積もり、ここから今後2年間の収益等を差し引いて算出した資本不足額に、今年に入ってからの資本調達等を加味し、10社で計746億ドルの資本不足が生じる。なお、資本余力の充足基準としては「6-4基準」(中核的資本であるTier1で6%、そのうち普通株式が4%)を用い、「ほとんど全ての金融機関でTier1資本は仮定された経済の悪化時の損失を吸収できるものであったが、19社のうち10社でTier1資本のうち普通株式資本(4%と設定)の不足が生じる」とした。最大の資本不足はバンカメで、不足額が339億ドルと突出、ウェルズ・ファーゴ、シティと続く。資本不足の各社は、1ヵ月以内に資本調達計画を策定し、6カ月以内にその計画を実施しなくてはならないため、公表後、各社では相次ぎ資本増強に着手した。
今回のストレステストは、2/10にガイトナー財務長官が発表した包括的金融安定化策のうちの資本注入策(CAP)に関連して行われたものであり、すでに1000億ドル余と残額の少なくなったTARP(不良資産救済プログラム)枠を検証する意味合いを持っていた。結果としての746億ドルの不足はこの範囲内に収まるもので、政府は、当面議会の反対の強い資金枠増加の要請を避け得た。
一方、金融危機以降の市場では、住宅価格下落が加速する中で、今後、金融機関の損失がどこまで拡大するのか計りかねた状況にあり、今年に入ってからは、金融機関の損失処理と自動車問題が市場の重荷となっていた。今回、景気下振れ想定の中での損失額が示され、その資本不足額が金融安定化法下の枠内に留まったことも一定の安心感を与えた。
しかし、上記のように、2年後の資本不足推計という作業には多くの仮定や前提を有し、“恣意的な”動きがあったとして疑問が投げかけられるなど、ストレステストを見るにあたって考慮しておく点は少なくない。
第一に、2月時点に想定した経済の下ブレシナリオ(実質GDPで2009年マイナス3.3%、2010年0.5%等)は、その後の実体経済の急速な悪化で「下ブレ」を想定したとは言いがたい。ただし、これは、見通しの甘さであって、「下ブレ」シナリオ想定下の損失見積もり額自体の信頼性にかかわるものではない。
第二は、損失額の算出時に今後の収益を過大に見積もったとの疑念。金融機関サイドでは引当金の減額・トレーディング益等で1-3月期の収益増をはかり、それを背景に今後の収益を上乗せ、資本不足を圧縮したとの報道もある。
第三は、19社の資本格差の明示により、資本不足とされた金融機関への市場の目が厳しくなることだ。CDS保証料や市場調達金利等の格差拡大など、「公的格付け」の意味合いは小さくない。半面、資本が十分とされた金融機関では、ゴールドマンサックスのように公的資金の早期返済に追随の意向を示すところもあり、こうした動きが広がる可能性もある。しかし、貸出し余力を回復する前の無理な公的資金の返却では、貸し渋りの状況は改善できない。また、「普通株」発行ラッシュは、当該株式価値の希薄化や調達額自体が市場の負担となりつつある。
第四は、資本不足の解消に重点が置かれ、不良資産の圧縮促進策とはならない可能性があることだ。不良資産売却には損失拡大がつきまとう。この点、バーナンキ議長が、損失推計にあたってキャッシュフローを用いた資産評価を行い、市場価格や清算価格を用いなかったとした点も気掛かりである。日本の例を見ても、不良資産売却が先送りされれば、問題の長期化が進もう。
こうしたポイントを踏まえてストレステストの結果を振り返ると、「下ブレ」シナリオで“前例のない陣容”で検証した結果である約6千億ドルの損失については、下ブレシナリオの「標準シナリオ化」により、一層、「現実味」を帯びた数値に近づいたとも言えそうだ。しかし、2010年までの営業収益等による損失吸収見込み額(3629億ドル)については今後下方にブレないかを検証していく必要があろう。そして、これら両者の想定値の上に計算された746億ドルの自己資本不足額は、今後の実績トレースの中でかなりのブレを想定しておく必要があろう。
特に、この746億ドルは、今回、新たに普通株ベースのTier1を4%とする基準を元に算出された数値である。いうまでもなく、どのような基準を取るかによって、資本不足額は大きく左右される。バーナンキ議長は「普通株重視の考え方は、これまでも市場にあり、銀行持ち株会社規則でもTier1の支配的割合(dominant portion)を占めるよう求められている」と説明する一方、「“6-4基準”は新たな標準規制となるわけではない」としている。しかし、大手19社で適用された事実が、米国で活動する外国銀行に与えた影響は大きく、既に外銀の資本調達行動にも普通株重視の動きが出ている。
一方で、普通株で4%という基準を採用した結果、資本不足額が金融安定法の資金残枠の範囲にうまく収まったことも事実であり、そのため、普通株ベースのTier1基準を“恣意的に”採用したとの見方が出てくるのも止むを得ないところであろう。ストレステストが政府・金融機関の双方の妥協による出来レースとの見方が絶えない背景もこうした点にある。
土肥原 晋
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