コラム
2009年01月20日

金利上昇を見込んだ債券運用の罠

千田 英明

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債券は金利が上昇すると価格が下落し、金利が低下すると価格が上昇する。この性質は長期債の方が短期債よりも大きい。例えば、金利が1%上昇した場合に、時価100円の1年債は約1円(=1%×1年)下落するのに対し、10年債は約10円(=1%×10年)下落する。同じ金利上昇幅でも、価格下落幅は長期債の方が大きいため、今後金利上昇を見込む場合、通常は短期債に投資するだろう。しかし、早期に短期化を進めるのにはリスクがある。短期化すべきかどうかは、金利上昇までに要する時間(金利上昇スピード)も考慮すべきだからである。

債券投資により得られる収益には、基本的に3つの要素がある。1つ目は、金利(価格)変動によるキャピタル損益で、金利が低下すれば収益となり、金利が上昇すれば損失となる。これは前述の通り短期債よりも長期債の方が、変動割合が大きい。2つ目は、債券を保有し続けることにより得られるインカム(利息)収入で、これは金利変動に関係なく収益となる。通常は長期債の方が短期債よりも高い収益を得られる(2009/1/9現在の金利水準は1年債が0.3%なのに対し、10年債は1.3%である。この1%の差がインカム収入の差となる。)。3つ目は、債券を保有し続けることにより、自然に利回りが低下すること(ローリング効果)により得られる収益である。例えば、10年債を1年間保有すると9年債になる。現在の金利水準は10年債が1.3%なのに対し、9年債は1.2%である。よって1年間金利が動かなければ、0.1%の金利低下が見込まれる。金利が低下すると、債券価格が上昇する分だけ収益となる。(実は、4つ目に信用リスクに応じて得られる収益があるが、議論を簡単にするため、ここでは信用リスクのない国債のみに投資すると仮定した。)

債券投資により損失が発生するのは、金利上昇により1つ目のキャピタル損が発生するときである。よってこの損失を小さくするには、短期化を進める必要があるが、債券投資には、前述の通り2つ目、3つ目の収益があるため、短期化するかどうかは、そのトータルの収益を考えなければならない。金利上昇を見込んだが、仮に1年間金利が動かなかった場合、現在の金利水準で1年債に1年間投資すると、キャピタル損益は0%、インカム収入は0.3%、ローリング効果による収益は0%、トータルで0.3%である。一方、10年債に1年間投資すると、キャピタル損益は0%、インカム収入は1.3%、ローリング効果による収益は0.9%(=0.1%×9年)、トータルで2.2%である。つまり将来の金利上昇を見込み、早期に短期化を進めた場合、1年で1.9%もの機会損失が発生する計算で、この差は時間が経過するほど拡大するのである。また、金利上昇を見込んだが、逆に金利が低下した場合、キャピタル損益がプラスになるため、長期債の方が短期債より更に大きな収益を得られることになる。

足元では、金利が急上昇するような景気の状況ではないため、将来の金利上昇を見込んで短期債に投資するには、金利上昇までに要する時間も考慮しなければならない。金利上昇に備えた短期化のタイミングは、慎重かつ大胆に判断する必要がある。
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