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- 乾坤一擲の様相みせる「オバマ経済再生計画」
コラム
2009年01月09日
グリーンスパン前議長の「百年に一度の危機」発言が一人歩きしていることもあって、巷間、大恐慌との比較が溢れている。確かに、米国の株価急落、大手金融機関の破綻、その後発表された経済指標の悪化は記録的な様相を見せている。しかし、1929年の株価クラッシュ後に訪れた大恐慌との比較は、現状では、バーナンキ議長の言を借りれば「その深刻さに於いて比較にならない」と言えよう。
実際、大恐慌時の4年間で、GDPは3割弱、生産は4割弱の縮小、失業率は25%に昇り、1万行に迫る銀行破綻等で株価も29年のピークから1/6となったことを考慮すれば、2009年実質GDPのエコノミスト予想平均が▲1.1%に留まる現状とは、比較の対象とは成り難い。2007年12月のリセッション入りが発表された現在、戦後最長の不況とされる16ヵ月を超え、「大恐慌以来の長期不況」となる可能性は強まっているものの、大恐慌の43ヵ月に比肩する長期不況になるとの予測が出ているわけではない。
また、大恐慌以降の米国の不況がそれほど長期間とならなかったのは、大恐慌の教訓が生かされている証左とも言え、今回に限ってその教訓が生かせないというのも不自然と思われる。大恐慌に陥った要因としては、株価クラッシュにもかかわらず、フーバー大統領が小さな政府、財政均衡、金本位制等に固執し、僅かな減税を除いて確固たる景気対策を採らなかったことが指摘されており、その後、ルーズベルト大統領のニューディール政策によって息を吹き返した経緯がある。
さて、世界経済が危機意識を高める中、新年最大のイベントは、危機の震源地である米国での新政権の誕生であろう。景気が後退を深める中、オバマ次期大統領が教訓にしているのは、米経済が大恐慌から立ち直った上記の先例と、日本がデフレからの脱却に苦しんだ事例とされる。こうした先例からの教訓としては、「大胆な対策を迅速かつ継続的に実施する」ということであり、オバマ氏は、就任早々大規模な景気対策を矢継ぎ早に打ち、経済危機からの脱出を目論んでいる。
中でも注目を集めているのが財政投資だ。具体策は公表していないものの、「1950年代の高速道路投資以来、最大級の公共投資により、道路や橋などのインフラ整備、公共建物のエネルギー効率の改善、学校・医療システムの近代化、高速・大容量ネットの整備等を行う」と表明、50年ぶりともなる大規模な財政投資を行えば、歴史的な事例として経済の教科書に記されることとなろう。
ただし、公共投資の場合、工事にとりかかるまでに時間を要することから、実際には、より経済効果の早い減税や失業手当の増額等を先行させ、大規模な公共投資を組み合わせることによって、先行きの景気不透明感やデフレ懸念を払拭し、冷え込んだ消費者マインドや株価等の回復を狙っている。これらの経済再生計画による雇用創出目標は300万人に昇り、財政規模は向こう2年間で7750億ドルと報じられている。財政赤字の拡大に繋がるとして再生計画に反対の強かった共和党サイドでも、減税枠の拡大(3000億ドル相当)等もあり支持の広がりを見せている。新政権では2月13日の議会休会前の法案成立を目指しており、大方のエコノミストもこうした景気対策への期待が強く、年後半の米経済の浮上を見込んでいる。
確かに巨額の財政投資はその分GDPに寄与するため、一時的に成長率を高めることとなろうが、問題は、その後の経済を持続的な成長軌道に乗せられるのかという点にある。米国経済の7割を占める個人消費では、債務負担の重たい家計が、住宅価格と株価の急落により、バランスシート調整を迫られている。昨年の減税効果が小さかったのは、還付金が債務返済に充当され消費されなかったためとも言われる。個人消費に影響の大きい住宅価格の反転や雇用の回復には時間を要すると思われ、景気対策の効果が持続的成長に繋げられるのか、なお疑問の余地が残される。今後、どのような住宅対策が打ち出されるのかに期待したい。
もう一つの問題は財政赤字の拡大である。オバマ氏は、「財政出動の結果、景気が回復しても数年間は1兆ドル規模の赤字を抱える」と発言、景気回復を最優先させる方針だ。この点では、大型減税で巨額の財政赤字を招いたレーガノミクスを想起させる。巨額の財政赤字は、「双子の赤字」問題を招き、実質金利の上昇を伴い、為替相場に影響し、その後、財政均衡に向けた長年にわたる多大な尽力を強いた。既に、金融機関向け支援の支出で財政赤字は未曾有の1.2兆ドル(2009年度)に膨張、GDP比8.3%と「双子の赤字」時代を凌駕する赤字が見込まれている。そうした状況下でこれほど大規模な景気対策が打てるのはオバマ氏への支持率が極めて高いからである。ただし、この結果が一時的な浮揚策に終われば、巨額の財政赤字が更なる政策余地を狭め、また、支持率も大きく低下する可能性があるため、追加策の実施はより困難を伴う。その意味で今回の対策は失敗の許されない“乾坤一擲(けんこんいってき)”の対策とも言えよう。
また、仮に景気回復に成功してもレーガノミクス同様、財政赤字を取り巻く難問が待ち構えることとなる。オバマ氏は「何よりも大切なのは困難に立ち向かうチャレンジ精神であり、将来、新しい希望のあるアメリカが始まった年として2009年を振り返ると確信している」と鼓舞しているが、この点でもレーガン元大統領の演説を想起させる。いずれにしても、今回の景気浮揚策が今後の米経済の進路を大きく“チェンジ”することだけは間違いないと思われる。
実際、大恐慌時の4年間で、GDPは3割弱、生産は4割弱の縮小、失業率は25%に昇り、1万行に迫る銀行破綻等で株価も29年のピークから1/6となったことを考慮すれば、2009年実質GDPのエコノミスト予想平均が▲1.1%に留まる現状とは、比較の対象とは成り難い。2007年12月のリセッション入りが発表された現在、戦後最長の不況とされる16ヵ月を超え、「大恐慌以来の長期不況」となる可能性は強まっているものの、大恐慌の43ヵ月に比肩する長期不況になるとの予測が出ているわけではない。
また、大恐慌以降の米国の不況がそれほど長期間とならなかったのは、大恐慌の教訓が生かされている証左とも言え、今回に限ってその教訓が生かせないというのも不自然と思われる。大恐慌に陥った要因としては、株価クラッシュにもかかわらず、フーバー大統領が小さな政府、財政均衡、金本位制等に固執し、僅かな減税を除いて確固たる景気対策を採らなかったことが指摘されており、その後、ルーズベルト大統領のニューディール政策によって息を吹き返した経緯がある。
さて、世界経済が危機意識を高める中、新年最大のイベントは、危機の震源地である米国での新政権の誕生であろう。景気が後退を深める中、オバマ次期大統領が教訓にしているのは、米経済が大恐慌から立ち直った上記の先例と、日本がデフレからの脱却に苦しんだ事例とされる。こうした先例からの教訓としては、「大胆な対策を迅速かつ継続的に実施する」ということであり、オバマ氏は、就任早々大規模な景気対策を矢継ぎ早に打ち、経済危機からの脱出を目論んでいる。
中でも注目を集めているのが財政投資だ。具体策は公表していないものの、「1950年代の高速道路投資以来、最大級の公共投資により、道路や橋などのインフラ整備、公共建物のエネルギー効率の改善、学校・医療システムの近代化、高速・大容量ネットの整備等を行う」と表明、50年ぶりともなる大規模な財政投資を行えば、歴史的な事例として経済の教科書に記されることとなろう。
ただし、公共投資の場合、工事にとりかかるまでに時間を要することから、実際には、より経済効果の早い減税や失業手当の増額等を先行させ、大規模な公共投資を組み合わせることによって、先行きの景気不透明感やデフレ懸念を払拭し、冷え込んだ消費者マインドや株価等の回復を狙っている。これらの経済再生計画による雇用創出目標は300万人に昇り、財政規模は向こう2年間で7750億ドルと報じられている。財政赤字の拡大に繋がるとして再生計画に反対の強かった共和党サイドでも、減税枠の拡大(3000億ドル相当)等もあり支持の広がりを見せている。新政権では2月13日の議会休会前の法案成立を目指しており、大方のエコノミストもこうした景気対策への期待が強く、年後半の米経済の浮上を見込んでいる。
確かに巨額の財政投資はその分GDPに寄与するため、一時的に成長率を高めることとなろうが、問題は、その後の経済を持続的な成長軌道に乗せられるのかという点にある。米国経済の7割を占める個人消費では、債務負担の重たい家計が、住宅価格と株価の急落により、バランスシート調整を迫られている。昨年の減税効果が小さかったのは、還付金が債務返済に充当され消費されなかったためとも言われる。個人消費に影響の大きい住宅価格の反転や雇用の回復には時間を要すると思われ、景気対策の効果が持続的成長に繋げられるのか、なお疑問の余地が残される。今後、どのような住宅対策が打ち出されるのかに期待したい。
もう一つの問題は財政赤字の拡大である。オバマ氏は、「財政出動の結果、景気が回復しても数年間は1兆ドル規模の赤字を抱える」と発言、景気回復を最優先させる方針だ。この点では、大型減税で巨額の財政赤字を招いたレーガノミクスを想起させる。巨額の財政赤字は、「双子の赤字」問題を招き、実質金利の上昇を伴い、為替相場に影響し、その後、財政均衡に向けた長年にわたる多大な尽力を強いた。既に、金融機関向け支援の支出で財政赤字は未曾有の1.2兆ドル(2009年度)に膨張、GDP比8.3%と「双子の赤字」時代を凌駕する赤字が見込まれている。そうした状況下でこれほど大規模な景気対策が打てるのはオバマ氏への支持率が極めて高いからである。ただし、この結果が一時的な浮揚策に終われば、巨額の財政赤字が更なる政策余地を狭め、また、支持率も大きく低下する可能性があるため、追加策の実施はより困難を伴う。その意味で今回の対策は失敗の許されない“乾坤一擲(けんこんいってき)”の対策とも言えよう。
また、仮に景気回復に成功してもレーガノミクス同様、財政赤字を取り巻く難問が待ち構えることとなる。オバマ氏は「何よりも大切なのは困難に立ち向かうチャレンジ精神であり、将来、新しい希望のあるアメリカが始まった年として2009年を振り返ると確信している」と鼓舞しているが、この点でもレーガン元大統領の演説を想起させる。いずれにしても、今回の景気浮揚策が今後の米経済の進路を大きく“チェンジ”することだけは間違いないと思われる。
土肥原 晋
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