コラム
2004年01月14日

持続可能性と二極分化

  森重 透

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1.日本経済の現状-「芽」は出たのか?

日本経済は、2002年4-6月期以降、6四半期連続で実質GDPがプラス成長(前期比ベース)にあり、輸出・設備投資主導による緩やかな回復が続いている。2002年度は外需主導の成長であったが、03年度は、設備投資の伸びによって民需の伸びも高まるなど、一見バランスのとれた安定的な景気回復過程にあるように思われる。

しかし、下掲図表に見るとおり、名目成長率は低迷が続いており、物価の下落基調・デフレーターの大幅な低下によって実質成長率が押し上げられているに過ぎないとも言える。つまり、デフレ経済下で名目GDPと実質GDPが大きく乖離しているということである。97年には521兆円もあった名目GDPは、今や498兆円と8年前の水準に逆戻りしている。実質GDPで経済成長を語るのはインフレ時代の発想であり、企業経営や財政運営にとって重要な名目ベースで見れば、日本経済は水準も方向も不振を抜け出ていないのである。実質GDPを除けば、生産、雇用、物価、民間給与、株価等、経済データの中で、小泉政権発足前と比較して改善しているものはほとんど無く、日本経済の現状が「改革の芽が出つつある」と果たして言えるかどうかは、疑問であろう。


2.持続可能性と二極分化

問題は、輸出・設備投資主導で緩やかながらも回復基調にある経済が持続可能性を有しているかどうか、すなわち、企業部門の改善が家計部門にも波及し、GDPの6割弱を占める個人消費に点火する形で、自律的な景気回復局面に移行できるか否かである。残念ながら、リストラ効果剥落による企業収益の先細り、増税など負担増のほか家計の雇用・所得環境に改善が期待できないこと、円高のリスクがぬぐえないこと、頼みの米国経済にも持続性に問題がある点などを考慮に入れれば、全面的な拡大局面への移行シナリオは立てにくいと言わざるを得ない。デフレが続くなかで見かけ上実質GDPは押し上げられるも、日本経済は持続可能性は期待できずに、依然として厳しい局面にあると見られる。

今ひとつの懸念は、デフレ経済のもとで、日本社会に二極分化(格差の拡大)が進行している点である。大企業と中小企業、製造業と非製造業、大都市と地方、官と民、貧富の格差、高齢層と若年層、就業者と失業者・・・、デフレの勝者と敗者がいて、経済社会の矛盾や「合成の誤謬」に気づかないまま、二極分化の度合いが深まる。そのようななかで、我々は自信や希望を失い、将来のビジョンを描けないでいないだろうか。この弊害の最たるものが、失業、倒産、「経済・生活問題を理由とした自殺」の増大であり、とくに、一段と深刻化する若年者の雇用不安が日本経済の将来にとって極めて大きな問題であることは、筆者が前回の当コラム(「マクロ政策をわらう者は・・・」)において指摘したとおりである。


3.経済政策の責任-問われる遂行力

このようなデフレ下で需給ギャップ(総需要が総供給を下回る状態)が存在する、いわゆるデフレ不況を脱却し、二極分化も是正しながら持続的成長を図るためには、需要の増加を通じてGDPギャップを縮小させていくマクロ経済政策が必要である。そのためには、企業のリストラや政府の財政再建など各経済主体が正しいと思って取組む効率化(ミクロの改革・改善)が、縮小再生産の「マイナスの渦」を伴って、結果的には自らの利益を阻害してしまうという、「合成の誤謬」や「悪循環の構造」を断つことが肝要だ。デフレ下では、マクロ経済における「リストラの解」は存在しない。需要の増加を通じてギャップを縮小させていくとは、あくまでも名目の売上げや税収を増大させるということである。

「Rising tides raise all ships」(満ち潮はすべての船を持ち上げる)という言葉がある。このような状態に経済を持って行けるのは、マクロ経済政策だけである。構造改革も立派な経済政策ではあるが、これは供給サイドの強化策であり、むしろGDPギャップを拡大すること、デフレ下でこれを優先的に強行すれば、失業者の増大とデフレの更なる深刻化を招くことは、すでに小泉構造改革路線の実績と合わせ、ここ一両年の経済論争において決着のついた点であろう。「構造改革なくして景気回復なし」というキャッチ・フレーズは、天井(潜在成長率)が高くなれば我々の身の丈(現実の経済成長率)も伸びる、と言っているようなものであったが、これが実現するという期待の道筋は、すでに事実上途絶えている。

現政権の構造改革路線は、3回目の予算編成を迎えた昨年末の時点で、「改革工程表」のどの主要項目を見ても、実現不可能か、あるいはきわめて実現が困難だと予想せざるを得ない状況に陥ったのではないか。せめて、現実の経済を動かす新年度の政府予算案において、資源配分の効率化を通じて経済の活性化を目指すという、まさに構造改革という名の経済政策の真髄を世に問う責任が政府には望まれたのであるが・・・。「デフレ経済下では、財政当局と金融当局が一致団結してデフレ阻止に協力すべきであり、有効需要を掘り起こすために、積極的な財政・金融政策に同時に取組むべきだ」(FRBの元高官)という言葉が、身にしみる新年である。
 

 

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