2003年06月25日

社会的責任投資と企業年金の受託者責任 -米国の法制、判例、行政解釈を中心に-

  土浪 修

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1.
投資先の選定に際して環境や人権といった社会的、倫理的評価を考慮する社会的責任投資に対する関心が高まっている。本稿では、企業年金の投資に伴う信認義務(受託者責任)と社会的責任投資との関係を巡る法的状況を、米国を中心として英国にも触れつつ整理、紹介する。なお、年金制度の関係者に付随的便益(投資の恩恵)を与えるような投資を含めて検討を進める。
2.
米国信託法の権威スコット教授は、会社による寄付の類推から、信託の受託者は投資の成果を犠牲にしても投資に際して企業の社会的成果を考慮できると主張されたが、その後の信託法のリステイトメントや統一法には採用されていない。企業年金を規制するエリサ法によれば、年金資産を運用する者は、もっぱら加入者の利益のために(忠実義務)、思慮深く(注意義務)投資しなければならない。
3.
米国の判例によれば、投資の付随的便益が事業主や労働組合に及ぶ場合に関して、注意義務がみたされていれば、付随的便益の提供を主目的としたり加入者を犠牲にするものでない限り、忠実義務に違反しないとされる。また、地方公務員年金が保有する南アフリカ関連企業の株式の処分を命じる条例について、加入者の不利益は僅かであり連邦憲法の契約条項に違反しないとした判例がある。
4.
エリサ法の信認義務規定を執行する米国労働省は、1980年代以来、選択可能な他の投資と同等の経済的価値(リスクを勘案した投資の期待リターン)を有する限り、社会的責任投資がもたらす非経済的要素(付随的便益)の観点からそれを選択しても、信認義務に違反しないとの見解を示してきた。
5.
英国の判例によれば、企業年金の受託者は投資収益の最大化を目指さなければならず、他の投資と同程度に有利な場合に限って社会的考慮が可能とされる。なお、教会の信託基金については、重大な財務的損失の恐れがない場合には信託目的を踏まえた道徳的考慮も可能とされる。2000年に施行された年金法の規則により、年金基金は投資に際して社会的、環境的または倫理的考慮を行う場合には、その程度を投資方針書に記載しなければならないが、当規則は社会的考慮自体を義務づけるものではなく、判例に示された受託者の義務を変更するものではないようである。
6.
米英の判例等をまとめると、年金制度の受認者は加入者の利益すなわち投資収益最大化を図らなければならず、「投資の経済的価値が同等」、つまり投資収益を犠牲にしない場合に限って社会的責任投資を選択することができる。近年では、「社会的責任投資には高い運用成果を期待できる」との主張もあるが、これを含めて、実際の投資手法をよく見極める必要がある。わが国において、社会的責任投資に関する法的検討に加えて、投資や経済面からの検証が進むことを期待したい。

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