2001年09月25日

年金法制における運用機関の受託者責任と生命保険会社 -「年金3法」の受託者責任規定と最近の米国エリサ法判決-

  土浪 修

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1.
年金資産の運用に関する受託者責任の明確化、具体化が進んでいる。昨年制定された公的年金の自主運用関連法、本年6月に制定された確定給付企業年金法および確定拠出年金法(以下、年金3法という)は、年金制度内部の者に加えて運用機関(信託銀行、生命保険会社および投資顧問会社)の受託者責任を統一的に規定した。運用機関に対して「いわゆる忠実義務」を共通に規定したことは、従来の業態別・縦割り規制に代わる金融サービス法の考え方を先取りしたものとして意義深い。また、運用機関と直接の契約関係のない、年金制度の加入者や受給者が義務の相手方とされている場合がある点も注目される。
2.
もっとも、「いわゆる忠実義務」の内容や違反の効果等は明確でない。年金法制が一般的抽象的に規定した運用機関の受託者責任の内容の具体化は、金融法制における今後の検討課題と考えられる。生命保険会社については、顧客が運用リスクを負担する特別勘定はともかくとして、生命保険会社が元本と利率を保証する一般勘定契約と受託者責任との関係について、契約の性質を十分に踏まえた検討が望まれる。
3.
米国の企業年金法であるエリサ法は、「給付が保証された保険」を受託者責任の適用除外としており、エリサ法を所管する労働省は「一般勘定は受託者責任の対象外」と解釈してきた。顧客の拠出した保険料が生命保険会社の資産と混合され、生命保険会社は多数の契約者の公正な取扱いを州法により義務づけられる一般勘定の仕組みと、エリサ法の「もっぱら年金制度の加入者の利益を図らなければならない」忠実義務とは、両立困難との懸念が強かった。
4.
労働省の解釈が93年の最高裁判決で否定され、これを受けた昨年11月の地裁判決は、生命保険会社の一般勘定団体年金の運営と受託者責任との関係について初の判断を下した。判決は一般勘定の仕組み自体が受託者責任に反するとは判断せず、また、エリサ法の忠実義務を他の契約者と公平な取扱いを求める義務と解して、上記の懸念を一応払拭した。もっとも、一般勘定における投資や経費の団体年金商品への配賦の一部や年金制度に不利益となる契約上の権限行使を忠実義務違反と認定した。いずれも、以前の判決が契約違反ではないと判断したものである。なお、本判決は控訴されている。
5.
運用機関を規制する法制としては、(1)業態別の「縦割り」法、(2)金融サービス法のような「横割り」法、(3)年金制度に関する法制、が考えられる。(3)は、年金制度やその加入者等に限って特別に保護するものであり、運用機関における他の顧客との公平を害し、問題が多い。年金3法の運用機関の受託者責任規定は一見すると(3)だが、前述のように具体的な内容や効果は明確でない。今後、(2)を目指しつつある金融法制において、現在の契約法や業法の分析も踏まえて、取引類型に応じた具体化の検討が望まれる。生命保険会社については、米国のエリサ法も参考に、受託者責任の適用除外を規定することも必要であろう。

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