2023年05月24日

欧州大手保険Gの2022年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況-

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(参考)Prudential plc5
(1)全体の状況
2022年の新契約利益(New Business ProfitNBPは、2021年に比べて14%減少(為替固定ベースでは11%減少、以下同様)して、21.84億ドルとなった。

新契約マージン(New Business Margin)(対PVNBP(=新契約利益/新契約保険料現在価値(PVNBP))は、2021年と同じ10%だった。また、新契約マージン(対APEは、2021年に比べて10%ポイント低下(11%ポイント低下)して、50%となった。

2021年に比べて、新契約保険料現在価値(PVNBPは7%減少(4%減少)して224.06億ドルとなり、新契約年換算保険料(APEは、5%増加(9%増加)して、43.93億ドルとなった。
生命保険事業の新契約の状況
 
5 Prudentialについては、2019年10月に、アジアと米国で保険事業を展開するPrudential plcと欧州で保険事業と投資管理事業を展開するM&G plcに分割され、さらに、Prudential plcは、2021年9月に米国事業であるJackson Financial Inc. をグループから分離した。その意味で、Prudential plcは欧州の保険会社ではないが、アジアにおいて重要な位置付けを有している会社であることから、(参考)として、その数値を掲載している。
(2)新契約年換算保険料(APE)の地域別内訳
Prudentialは、アジアの主要各国・地域において、有意な新契約年換算保険料(APE)を計上してきている。

Prudentialにとって、新契約利益とEV(エンベディッドバリュー)において、過去において最も重要な市場は香港だったが、2020年の業績が、香港の中国本土の個人への販売が中国本土との国境の閉鎖により大幅に削減されたことから、大きな影響を受けた。地域別の新契約年換算保険料(APE)では、2021年からは中国に抜かれ、2022年において香港はシンガポールに次いで第3位となった。

なお、各地域における市場シェアやランキングの状況については、前回の基礎研レポート「欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2022年決算数値等に基づく現状分析-」(2023.5.9)で報告している。

2021年との比較では、中国、台湾、ベトナムにおいて二桁進展する等、引き続き高い成長率を確保してきてきている。
新契約APEの地域別内訳
新契約APEの主要地域別内訳(アジアの主要国)
(3) 新契約利益(NBP)及び新契約マージンの地域別内訳 
新契約利益(NBP)、APE、PVNBP、新契約マージン(対APE)及び新契約マージン(対PVNBP)の地域別内訳は、以下の図表の通りである。

新契約利益(NBP)では、シンガポールがトップで、第2位が中国、第3位が香港となっている。2021年に比べて、香港では大幅に減少し、シンガポールでも減少したのに対して、中国ではほぼ1割程度伸展している。
新契約マージン等の地域別状況

3―まとめ

3―まとめ

以上、欧州大手保険グループの2022年の生命保険事業の新契約業績について、商品タイプ別、地域別の販売動向及び新契約マージン等の収益性の状況を中心に報告してきた。

1|2022年実績のまとめ
これまで報告してきたように、各社の新契約の収益性評価のための(対外的に公表されている)指標は必ずしも統一されていない。ただし、各社とも、新契約マージン、新契約価値マージン、新契約利益等の名称の数値を用いて、商品タイプ別さらには地域別の数値を公表しているので、まずはこれらの数値をまとめておく。

(1)新契約マージンのグループ全体及び地域別状況
新契約マージンのグループ全体及び地域別の状況は、以下の図表の通りとなっている。

グループ全体の数値については、2020年はAvivaを除けば、一応PVNBP及びAPEの2つの指標に対する新契約マージンの数値を開示していたが、2021年からはAegonとZurichがPVNBPに対する新契約マージンの数値の開示を行っていない。

地域別では、欧州・米国に比較して、相対的にアジアが高くなっており、さらに欧州主要国の中でも、状況は必ずしも一律ではない。なお、AllianzやGeneraliは自国の水準がグループ全体の水準に比べて高くなっているが、AXAはそのような状況になっていない。

また、地域別の新契約マージンの水準を評価する上では、各市場における主要な商品タイプとの関係にも注意する必要がある。
新契約マージン(NBV/PVNBP)の地域別状況の各社比較(2022年)/新契約マージン(NBP/APE)の地域別状況の各社比較(2022年)
(参考)新契約マージン(NBV/PVNBP)の地域別状況の各社比較(2021年)/(参考)新契約マージン(NBP/APE)の地域別状況の各社比較(2021年)
(2)新契約マージンの商品タイプ別状況
新契約マージンの商品タイプ別状況を開示している会社は、地域別状況を開示している会社に比べて限定されており、グループ全体に対する開示は、AllianzとGeneraliの2社のみとなっている。さらに、その開示内容も、地域別状況の場合とは異なり、2社ともPVNBPに対するもののみとなっている。

なお、Avivaは英国&アイルランドの生命保険事業についてのみ商品タイプ別の状況を開示している。また、AXAとZurichは2017年までは商品タイプ別の状況を開示していたが、2018年以降は開示していない。

3社の開示数値からは、各グループの状況の中でも報告してきたように、新契約マージンは、保障・医療が最も高く、次がユニットリンクとなっている。これに対して、貯蓄・年金の新契約マージンは低水準となっている。
新契約マージンの商品タイプ別状況の各社比較(2022年)
(参考)新契約マージンの商品タイプ別状況の各社比較(2021年)
(3)評価
以上の図表をみてもわかるように、公表された数値から、新契約の収益性をグループ各社間で比較することは、その算出のための考え方や前提等が必ずしも統一されているわけではないことから、単純なことではない。

各社の開示内容は異なっており、特に商品タイプ別の新契約マージンについては、開示している会社は限定されている。また、地域別の新契約マージンについても、国毎ではなく欧州全体としての数値の開示にとどまっている会社もある。加えて、これらの分析の基礎となるデータの開示のレベルもグループ毎に大きく異なっている。

これらの数値は、基本的には、各社がグループ内で、商品タイプ間や地域間の新契約の収益性等の比較を通じて、戦略的な判断を行っていくための基礎数値としてワークしている形になっており、その意味で有益な情報を与えている。一方で、投資家等の財務情報の利用者の観点からは、あくまでも参考情報に留まっているというのが現状のように思われる。
2|2022年実績を踏まえて
2020年は、COVID-19の影響で、世界の各国において、ロックダウン等が行われ、販売活動が制限されたことから、国や地域によっては新契約業績に大きな影響を受けた。一方で、多くの地域で医療保険商品等へのニーズが健在化したことから、そのプラスの影響もみられた。さらには、市場の急激な変動等を受けてのユニットリンクの販売に与える影響も各国の状況によって異なっていた。

2021年は、COVID-19の影響も一定収束したことから、グループや地域、商品等によっても状況は異なるが、2020年の反動があって新契約を大きく進展させているケースも多くみられた。

2022年は、市中金利の上昇や株価の変動等の金融市場環境の大きな変化を受けての保険商品の販売への影響も一定観測される形になっている。

ただし、「1.はじめに」で述べたように、欧州大手保険グループ各社は、基本的には、伝統的な保証付の貯蓄・年金商品等から、ユニットリンク商品や保障・医療商品へのシフトを志向してきている。即ち、市場の動向等に収益水準が大きく左右される金融リスクの高い商品から、保障関係リスク中心の商品へのシフトを進めてきている。この動きは、COVID-19の影響や市場の急激な変動等の影響を受けても基本的には変わっていないものと思われる。

また、長く続いた低金利環境下で、高い運用利回り実績を挙げることが容易ではなくなってきていた中にあって、各社とも、新契約の保証利率の引き下げや、伝統的な保証商品に比べて保証を限定した商品(満期時保証、年金総額保証等)へのシフトを図ることで、負債コストの引き下げを図ってきた。

さらには、ソルベンシーII等の新たな資本規制の導入に対応すべく、各種商品ポートフォリオを見直して、ユニットリンク商品や保証水準を低めた商品等のリスクが抑制された資本負担の少ない商品へのシフトを図ってきた。

保証利率の引き下げ等により、従来の保証付商品の魅力が低下してきていることから、顧客サイドの選択肢の観点からも、ユニットリンク商品等に向かうインセンティブが一定程度喚起される形になっていた。

昨今の金利の上昇やインフレリスクの高まり等の環境変化にも関わらず、これまでの動きに基本的に大きな変化はないものと想定される。

各社とも、従前の投資関係損益への大きな依存から脱却していくことが求められてきており、(1)市場に左右されない保障や医療商品にシフトすることで、保険本来のリスクの引受けによる損益の位置付けを高めていくことや、(2)着実に資産の積み上げを図ることで手数料収入の確保ができる商品の拡販を目指す、等の運営を進めてきている。

いずれにしても、こうした運営を通じて、適正な資本水準を効率的に確保しつつ、高い収益を目指す経営を追求してきている。

各社とも、市場環境の変化や市場動向等を踏まえた上で、それぞれが置かれている状況に応じて、必要な対応策を講じていくことが求められてきており、実際にそのような方向で対応してきている。

日本の保険会社も、これまでの長期にわたる超低金利環境下で、継続的に所要の対応を行ってきているが、今後は経済価値ベースのソルベンシー規制の導入や国際的な保険契約の会計基準であるIFRS第17号の導入等の動き等を見据える中で、さらなる対応が求められてくることにもなってくると考えられる。

欧州の大手保険グループの取組みについては、日本の保険会社にとっても参考になるものが多いと思われることから、今後とも、その動向については引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年05月24日「基礎研レポート」)

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