2023年04月03日

欧州大手保険グループの2022年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(全体的な状況) -

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3|SCR等の算出方法(長期保証措置の適用状況)
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる移行措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置2の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。

保険年金フォーカス「欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2022.7.1)で報告したように、Zurich以外のソルベンシーII制度下にある5社については、全社がVAを適用し、AvivaとAegonが一部MAを、AllianzとGeneraliとAvivaが一部技術的準備金に関する移行措置を適用している。

これらの措置の適用による影響(2021年末ベース)については、以下の通りであり、Avivaがこれらの措置に大きく依存していることが示されている。なお、年度ごとの影響度の水準の差異は、VAの水準等の影響を受けている。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2021年末)/(参考)長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2020年末)
 
2 長期保証措置(経過措置を含む)の内容及びそのEU各国における適用状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)(6)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-」(2020.12.17~2021.1.15)等を参照していただきたい。
4|自己資本の内訳
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類3され、 それぞれについて算入制限が設定されている。

各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうち、Tier1の自己資本が8割から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度(従って、全体の7割から8割程度)を占めている。

例えば、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用してきているが、こうした債務については、早期償還等を行い、段階的にソルベンシーII適格なものに変更してきている。

2022年末における自己資本の内訳は、以下の図表の通りとなっている。

なお、Allianz については、2022年から、それまで公表していたOwn Funds Reportの発行を止め、これに含まれていた情報については、Annual ReportやSFCRに統合されたため、このレポート作成時点においては、自己資本の内訳は公表されていない。

ただし、Allianzを含めて、2021年末と比べて、各社とも主として経済変動の影響を受けての調整準備金(reconciliation reserve)(従って、Tier1(無制限))の残高が大きく減少していることから、全体の自己資本残高も1割~2割程度と大幅に減少している。

その他、各社の資本戦略等を反映する形で、内訳は変動している。

なお、各社とも、Tier1(無制限)だけで、SCRの100%水準を確保している。
自己資本の内訳(2022年末)
 
3 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産等である。
5|SCRのリスク別及び地域別内訳
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示については、次ページの図表が示すように、各社の事業構成等を反映する形で、リスク分類の方式等が異なっている。なお、Aegonについては、2021年数値を掲載している(2022年数値はSFCR公表時に開示されるものと想定される)。

リスク別では、各社とも市場リスクや信用リスクのウェイトが高くなっている。ここで、図表の「信用」に、(1)デフォルト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要となる。

生命保険と損害保険のウェイトが共に高い会社を中心に、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。オペレーショナル・リスクについては、ほぼ各社とも数%から1割程度の構成比となっている。

また、地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。
SCRのリスク別・地域別内訳(2022年末)

4―まとめ

4―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2022年末のSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告してきた。

決算公表時点でのソルベンシーに関する情報提供は、必ずしも十分なものとはいえない面もある。AXA、とGeneraliは、「OWN FUNDS REPORT」等の名称のレポートを作成しているが、さらに詳しい内容等については、今後公表されてくるSFCRで報告されていくことになる。

なお、米国の銀行破綻等に端を発した市場混乱等がソルベンシーに与える影響については、現時点では欧州の大手保険会社に大きな影響を与えるものではないと認識されているようだ。例えば、クレディ・スイス(Credit Suisse)のAT1債を保有している会社もあるが、ソルベンシー資本に対するエクスポジャーは限られている。ただし、さらなる金融危機の拡大等のリスクも考えられることから、これらを踏まえてのソルベンシーに与える影響等についての各社からの情報開示等があれば、必要に応じて適宜報告することとしたい。

次回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年04月03日「保険・年金フォーカス」)

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