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ウクライナ危機と対ロ制裁:現時点で考慮すべき三つの視点
ニッセイ基礎研究所 特別招聘顧問 政策研究大学院大学 特別教授 西村 淸彦
ロシアのウクライナ侵攻に対して、米国・欧州を軸にロシアへの制裁が広がっている。対ロ制裁の影響については三つの視点が重要である。
第一に、国際的な金融不安が起こる可能性である。ロシア一国の通貨危機を超えて、国際的な金融不安の連鎖を起こす可能性は低いが、局地的には国、地域によって個別の金融機関に大きな影響がでる。更には制裁と対抗措置の連鎖の中で、国際的な金融不安が起こる恐れを否定は出来ない。
第二に、すべてに超越する正しい目標とされてきた地球温暖化対策と、今般の対ロ制裁との齟齬が生じていることである。今後制裁コストが増大すると、温暖化対策は修正を迫られる可能性がある。
第三に、対ロ制裁が各地域の経済活動に及ぼす影響である。対ロ制裁以前に、すでにコロナ禍後の回復において『米国>欧州>日本』と言う形で経済活動とインフレの格差が生じていた。対ロ制裁に伴う資源価格の高騰は、資源消費国で物価上昇と景気後退が同時に進む「スタグフレーション」型供給ショックをもたらす。日本が米国に、更に欧州に大きく遅れ、地域間格差が拡大する懸念がある。
政策金利引き上げや量的緩和の縮小の効果が表れるには時間がかかる上、その見通しにも不確実性が伴う。米国、欧州において、金融引き締めが効果を発揮しデマンドプル型のインフレ高進が止まる頃には、資源価格高騰の影響からすでに景気後退が始まっている可能性がある。日本の場合は、インフレ圧力が高まる局面で、長期のインフレ期待、換言すれば家計の値上げに対する許容度が上昇するか、企業の賃上げへの動きが見られるようになるかが今後の金融政策を左右することになる。
ニッセイ基礎研究所 特別招聘顧問 政策研究大学院大学 特別教授 西村 淸彦
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