2020年10月09日

ニッセイ基礎研シンポジウム「『健康な社会』実現のために企業にできること」

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2020年10月9日「「健康な社会」実現のために企業にできること」をテーマにニッセイ基礎研シンポジウムを開催しました。

基調講演の次に「民間企業と連携した介護予防の豊明モデル」をテーマに豊明市健康福祉部健康長寿課 課長補佐 松本小牧氏に地域の事例をご紹介いただきました。


地域の事例紹介「民間企業と連携した介護予防の豊明モデル」
 
松本 小牧氏 愛知県豊明市 健康福祉部健康長寿課 課長補佐

※ 当日資料はこちら

1――豊明市の概況

ただ今ご紹介にあずかりました愛知県豊明市の松本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。私の方から豊明市が今取り組んでいる、さまざまなセクターと協力した高齢者を支えるまちづくり、そうした中から見えてきた課題とか、特に民間企業が果たすべき役割や可能性などのお話を共有できればいいなと思っております。よろしくお願いいたします。
 
まず、豊明市の紹介なのですけれども、ちょうど名古屋市の南東部に位置しておりまして、6万9000人の人口を持つまちです。市の特徴としましては、UR団地が55棟ありまして、市内には日本一の病床を持つ藤田医科大学病院を持つというまちです。名古屋市の南東部に位置しておりますので、いわゆる都市近郊型の人口構成をしており、これから85歳以上人口の伸びが非常に高い地域です。
 
豊明市は今、「ふつうに暮らせるしあわせ」というのをキャッチフレーズにしておりまして、私はこの「ふつうに暮らせるしあわせ」は本当に深い言葉だなと思うのですが、年を取り、さまざまなきっかけで何かできないことが増えてきて、例えば風邪をひいて入院するとそのまま寝たきりになってしまう。その中でちょっとしたことで高齢者の方の生活ががたがたと崩れて、いわゆる普通の暮らしが成り立たなくなるわけです。そうした普通の暮らしをどのようにさまざまな関係者とともにお守りするか、そのために地域にあるさまざまな力を生かしていこうというのが本市の取り組みです。

2――多職種合同ケアカンファレンス

本市の取り組みの中心となっているのが多職種合同ケアカンファレンスという場です。これはいわゆる症例検討会なのですけれども、ここではいわゆる医療カンファレンスではなくて、その人の暮らしを創造し、この方がやりたい活動、そして今までの馴染みの暮らし、そうしたものに戻していこう、そのために医療・介護のみならず、さまざまな知見を生かして、アイデアを出し合い、支えていこうというようなカンファレンスになっております。

平成28年から毎月実施しておりまして、私はこれにずっと関わっているのですが、年間100ケースぐらいの症例を見ておりまして、準備も含めますと今までに700~800の症例を見ております。このカンファレンスの一つの特徴はオープンであることです。参加は自由で、さまざまな専門職の方々ならびに民間企業の方々もご参加いただいております。医療・介護関係者のみならず、例えば大学病院の実習生であったり、民間企業の皆さまも、例えば卸だったり、サービス業だったり、小売だったり、メーカーだったり、さまざまな方々がこちらに来ていらっしゃいます。
 
このカンファレンスをやってきますと、さまざまな高齢者が抱える暮らしの課題や求めているものを、リアリティを持ってつかむことができます。こうした事例を通じて鍛え上げられたいわゆる「勘」をもって地域を見回してみますと、さまざまな資源が活用できることに気が付いてきました。

3――公的保険外サービス創出のきっかけ

一つのきっかけになったのがこのエピソードなのですが、ちょうど私どもの隣の名古屋市緑区にスーパー銭湯がありまして、そちらの銭湯の無料送迎バスが豊明市内を走っていたのをたまたま、うちの職員が見かけました。移動の足がなくなると、途端に外出の機会が減る高齢者がたくさんいる中で、こうした企業が無料で送迎サービスをやっているということに非常に驚きました。

この温泉施設に送迎をしてもらって行くことができれば、ここでは例えばお食事ができ、お友達とおしゃべりができ、お風呂に入って帰ってこられるということで、まさにこれはデイサービスではないかということで、私どもがすぐにこのバスを見つけた次の日にお店の方に行きまして、「店長に会わせてほしい」と言ったところ、店長は行政が指導に来たと思って避けられてしまったのですが、「いやいや、そうではない。企業の方々がこんなことをやってくださっているのであれば、私たちが何か協力できることはないだろうか。ここのバスにたくさんの高齢者の方々が乗っていただくような何かお手伝いをしたい」と言いましたところ大変驚かれまして、そこから協力関係が築かれました。
 
もう一つは買い物の話なのですが、団地はエレベーターがない5階建てですので、高齢者が荷物を持って階段を上ることが非常に難しいというニーズが出てきました。その中で、コープあいちさんにご協力いただけないかということで話を持っていったところ、店舗で買い上げられた商品をそのままレジを通して預けてくると、午後に無料で宅配してくれるようなサービスをしていただきました。私どもはそのチラシを持って地域を回り、こういった買い物の方法があって、こういった登録の方法をすると手ぶらで帰ってこられるという価値を伝えて、利用を促すような取り組みを進めていきました。

4――保険外サービス創出促進協定の締結

このようにしていけば、さまざまな企業体と新たなサービス、新たな価値をつくることができるのではないかと気が付き、そこからさまざまな企業にお声掛けをしていって、現在18社と連携協定を締結して事業を進めております。サービス業、そして小売業のみならず、メーカーやシンクタンク、卸などさまざまな業態と連携関係を築いております。
 
具体的に何をやっているかというと、高齢者の方々に向けたサービスをさまざまな企業様が考えていらっしゃるのですが、なかなかそれが高齢者には伝わらない。一方で、高齢者の方はどんなサービスが利用できるかが分からない。そういったところのコーディネートをする役割だったり、高齢者はこんなことを望んでいるということを民間企業の皆さまにお伝えする役割を、私ども行政が果たしてているということで、本当に一社一社と話をしながら、どんなことができるだろうかということを考えているところです。
 
先ほどのスーパー銭湯は、連携をしたらバスの乗車率が翌月から2.5倍ぐらいに拡大しまして、さらには先ほどのスーパーは一気に利用率が伸びまして、こちらも3倍ほどになりました。
 
大体スーパーの客単価は1人当たり1000円ぐらいといわれておりますが、この「ふれあい便」は1人当たり単価6500円を超えており、大変ご好評を頂いているところです。
 
いわゆる行政と民間企業の連携ということにおいては、さまざまな課題があります。今まで行政は民間企業と連携することにおいて、民間企業があまりもうけにならない分野だけれども社会的に意義のある、いわゆる左上の分野についての連携は比較的やりやすかったと思います。でも、私たち豊明市が求めているのはそうではなくて、やはり高齢者の暮らしを支えるサービスであるからこそ持続可能でないといけないと思っておりまして、ビジネスの採算性が取れる、もしくは企業の価値が高まり、社会の課題を解決するような右上の領域を望んでいるのだということを、あらかじめ民間企業の皆さまにお伝えした上で連携しております。
 
特に力を入れているのが外出です。これは豊明市内でやっているさまざまな民間企業と連携した外出先ですが、例えば車のディーラーさんの商談スペースでは毎日高齢者が来て体操をしていたり、昼間のカラオケボックスは非常にお客さんが少ないですが、その中で高齢者に来ていただいて、体操をしていただいて、カラオケを楽しんでいただくとか、ドラッグストアでは健康診断を無料で受けられるというようなことをやっております。

5――民間サービス活用における難しさ

こうした取り組みを進める中で、さまざまな課題も見えてきました。一つには、民間企業の皆さまが意外なほど高齢者の暮らしの実態の把握をしていないということでした。例えばサービスが使いにくかったり、設備が整っていなかったり、情報が多過ぎたり、字が小さかったり、申し込み方法が面倒だったり、少しサポートが必要な高齢者に対して十分なサポートができていなかったりすることによって、せっかくいいサービスなのに使われないことがあるということが分かってきました。
 
そのことに関しては、例えばスポーツクラブであれば一緒に私どもが行って、ここをこういったふうに変えた方がいいのではないですかというご提案を一緒にさせていただいております。
 
もう一つは、高齢者の方への伝え方です。民間企業の皆さまは割と、自社の商品やサービスを説明するのは非常に長けておられるのですが、実は高齢者の方々はそのサービス・商品を買うことよりも、その方がどのような暮らしをしたいかということを実現するときに、そのサービスや商品が役に立つかどうかを判断されていることがあります。例えば高齢者が望んでいることとしては、いつまでも元気で自立した生活を送っていきたいという気持ちだったり、つながりだったり、おしゃべりする機会だったり、または意外なほどおしゃれに関心があったり、そういったところで暮らし方の提案をするという観点で説明することがとても重要ではないかというふうに気が付いてきました。
 
左上の高齢者の方が団地で一人暮らしをしていて、一人でご飯を食べればそれまでなのですが、右上のように無料送迎バスを使ってスーパー銭湯に行って、お友達と食事をしてお風呂に入れば、そこでつながりが生まれる。そして左下のように宅配サービスを頼んでしまえば外出することはないのですが、店舗に行って自分の目で商品を見て、お出掛けして買い物を楽しめれば、それは外出の機会にもなり、さまざまな商品に触れるきっかけにもなる。こういったことで本当に一つの工夫で高齢者の暮らしを豊かにすることができるのではないかと思っております。

6――オンデマンド型の送迎サービス

最初は私どももこういった既存の商品やサービスをご紹介する機能にとどまっていましたが、だんだんそれだけでは駄目だということに気が付いてきました。企業の皆さまがさまざまな商品開発や研究開発をされる。そして川下の方では商品となって顧客にお届けするところがありますが、もっと川上のところで連携しなければいけないのではないかということにも気が付いてきました。
 
そんな中で出てきたのが「チョイソコ」というオンデマンド型の送迎サービスです。アイシン精機の方々が豊明市にお見えになって、初めに提案されたのはこの形ではなく、いわゆるシェアリングカーでした。そういったものではなくて、高齢者の方々は無料送迎バスに乗って温泉施設に乗っていって、帰りにドラッグストアに寄って帰ってくるので、こういった所で降ろしてもらえばいいのではないか、そのときにコストシェアをもっといろいろな企業の方々とすることもできるのではないかという話を私どもから提案してサービスになったものです。
 
最初に持ってきたサービスから、行政と対話をする中で形が変わり、そして実現していく中で商品化、サービス化していったのが「チョイソコ」というビジネスモデルですが、左側のスポンサーの方々からの利用料と顧客からの利用料で実現するというコストシェアのスキームになっております。
 
その中で私どもの役割として、さまざまな地域の方々にこの商品・サービスをご説明したり、関係者の方にご理解いただくようなお手伝いをさせていただいているところです。
 
そして、この「チョイソコ」サービスは豊明市から発信して今現在では愛知県のみならず、兵庫県や群馬県、鹿児島県とさまざまな県で導入が進んでいるところであり、2019年のグッドデザイン賞も受賞しています。

7――市が果たしていきたい役割・機能

高齢社会においてはさまざまな課題があります。身体機能の低下のみならず、暮らし全般が成り立たなくすること、つながりがなくなること、意思決定のことだったり、安心・安全、そして地域社会の崩壊のようなことも起こってきます。こういったところにまさに企業がサービスとするヒントが隠れているのではないかと思っているところです。そうしたところをビジネスチャンスにするためには、やはり私どもと一緒になって作り上げていくことがとても重要ではないかと考えております。
 
その中で四つ、私たちが果たしていきたい役割があります。

一つ目は、そういった社会の課題、イシューを共有していくこと。二つ目に、どんな未来が欲しいかという、その未来を一緒に描くこと。三つ目には、そうしてできた商品・サービスを高齢者の方々にお届けする役割や商品を開発するためのさまざまなデータを提供する役割。四つ目に、プロモーション機能です。
 
私どもは今、こういった場づくりに力を入れております。民間企業の皆さまがこれから高齢化社会に向けた新たな商品やサービスをさまざまに開発されるような左側と、地域社会が抱えているさまざまな課題を私どものようなパブリックセクターだったり専門職の方々が代弁をし、そうしたものを共に考え、共に未来を描き、一緒につくり上げていこうというような場づくりを私どもはしたいと思っているところです。雑駁なご説明でしたが、以上です。ご清聴ありがとうございました。

 
(三原) 松本さん、ありがとうございました。愛知県豊明市は最近、厚生労働省の資料にも必ず載っているような先進事例で、全国の自治体や民間企業の視察も相次いでいます。
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