2018年10月02日

年金改革ウォッチ 2018年10月号~ポイント解説:適用拡大の年金財政への影響

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金事業管理部会では、日本年金機構の業務実績の評価案について議論が行われました。昨年度を上回る評価があったものの、「外部委託の推進」の項目はD評価で、大幅な改善が必要とされました。年金部会では、被用者保険の適用拡大の経緯や現状について説明があり、さらなる検討のために別途、検討の場を設置する方向が示されました。
 
○社会保障審議会  年金事業管理部会
9月7日(第38回)  日本年金機構の平成29年度業務実績の評価、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000213396_00001.html (配布資料)
 
○社会保障審議会  年金部会
9月14日(第4回) 被用者保険の適用拡大、経済前提に関する専門委員会の中間報告
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00002.html (配布資料)
 

2 ―― ポイント解説:適用拡大の年金財政への影響

2 ―― ポイント解説:適用拡大の年金財政への影響

先月の年金部会では、パート労働者等への厚生年金の適用を、さらに拡大した場合の年金財政への影響が話題になりました。本稿では、誤解されることもある、この影響の要因(仕組み)を確認します。
1|影響:厚生年金の対象者を大幅に(1200万人)拡大すれば、基礎年金の水準低下が抑制される
図表1 適用拡大の年金財政への影響 2014年に公表された将来見通しでは、厚生年金の適用対象をある程度(220万人)拡大しても年金財政には影響が少ないものの、かなり大幅に(1200万人)拡大すると基礎年金の給付水準の低下が大幅に抑えられる、という影響が示されました。1200万人の拡大は、労働時間等に関係なく月給5.8万円以上の雇用者全員に拡大するという大胆な仮定ですが*1、基礎年金水準の確保策として推す意見もあります。
 
*1 220万人の拡大は、1200万人拡大の条件に、雇用期間1年以上、学生でない、厚生年金対象外の個人事業所を除く、が加わったもの。2016年10月に実施された拡大は、220万人拡大の条件に、月給8.8万円以上、正社員501人以上が加わったもので、検討時は25万人の拡大を想定(実際には2017年3月末で29万人が追加加入)。
2|要因(仕組み):適用拡大で加入者が移動しても、積立金は移動されないため
図表2 1200万人に適用拡大した場合の影響 ただ、どのような要因(仕組み)でこのような結果になるかは、十分に理解されていません。「厚生年金の支え手が増えるから、基礎年金の水準が良くなる」という誤解も聞かれます。

加入者数を見ると、1200万人規模の適用拡大が実施されると、自営業と同様に国民年金の第1号被保険者として扱われていた雇用者630万人が、厚生年金に移動します*2

収支を見ると、国民年金では、加入者数の減少に伴って保険料収入が減り、支出も減ります。国民年金の支出のほとんどは基礎年金への拠出金です。拠出金は国民年金と厚生年金の加入者の比で分担するルールなので*3、国民年金から厚生年金に加入者が移動すると、国民年金の分担が少なくなるのです。その分、厚生年金の負担が増えますが、厚生年金の財政規模は国民年金の約10倍なので、あまり目立ちません。厚生年金では、加入者の移動による直接的な影響よりも、基礎年金の給付削減が早めに終わる影響*4の方が、大きく出ています。

積立金を見ると、加入者の移動による直接的な変化はありません*5。これは、適用を拡大しても、それまでの積立金は移動しない仕組みになっているからです。この結果、加入者の移動によって支出が大幅に減る一方で積立金は減らないため、積立度合(積立金が支出の何年分あるか)は大幅に高まります。積立度合は耳慣れない言葉かもしれませんが、基礎年金の給付削減をいつ止めるかは、国民年金の積立度合が約100年後に1になるように決めるルールになっており、現在の年金制度では重要な指標です。前述したように適用拡大で積立度合が大幅に高まると、基礎年金の削減停止を早めても約100年後の積立度合を1にできるようになるため、図表1で見たように基礎年金の水準低下を抑制できるのです。

基礎年金の給付水準が過度に低下しないための対策は重要ですが、効果にとらわれすぎず、どういう機序(メカニズム)で効果が出るかについて十分に周知・理解された上で、議論されるべきでしょう。
 
2 厚生年金には、他のパート労働者等(主婦等(国民年金の第3号被保険者)250万人と高齢者(60歳以上)340万人)も移動。
3 厳密には、20~59歳が対象で、厚生年金の分担には国民年金の第3号被保険者(厚生年金加入者の配偶者)分も含む。
4 削減の早期終了で基礎年金の水準が上がるため、厚生年金への転入者以外の分の基礎年金への拠出金が増える。
5 拡大がない場合と比べて積立金が増えるのは、収支改善(主に国民年金は負担減、厚生年金は保険料増)による積増し。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

(2018年10月02日「保険・年金フォーカス」)

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