2018年02月02日

今回の円高はいつもと違う~ドル高シナリオの再考

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. 2018年は年初から大幅な円高ドル安が進行した。従来、ドル円は米長期金利との連動性が高く、円高は米利上げ観測の後退や地政学リスクなどで米金利が低下することで発生してきたが、今回は様相が大きく異なる。米税制改革への期待などに伴う利上げ観測の高まりで米長期金利が上昇し、日米金利差は拡大しており、本来であれば円安ドル高が進んでもおかしくないなかで、逆行する形で円高ドル安が進んだ。この背景を分析すると、「米長期金利上昇という本来のドル高圧力を、(1)ユーロや資源国通貨等の上昇、(2)米政権の保護主義・ドル安志向への警戒、(3)日銀の緩和縮小観測、(4)米金利上昇に伴う株価の調整、による円高ドル安圧力が上回り、円高ドル安が進行した」と整理できる。
     
  2. 今後のドル円レートの見通しを改めて考えると、まず、米長期金利はFRBの利上げ加速に伴って今後も上昇し、日米金利差は拡大するだろう。日米金利差が拡大した場合、円安ドル高に働くというメカニズム自体は不変と考えている。相対的にドルの投資妙味が高まり、ドル需要を高める効果があるためだ。また、従来長らく強い連動性があった日米金利差とドル円が、ここに来て全く無関係になる理由もない。ユーロや資源国通貨も上昇の継続は正当化できず、今後は上昇圧力が一服するだろう。つまり、今後も米金利上昇に伴う日米金利差拡大が続く一方、ユーロ・資源国通貨の上昇圧力が一服することで、ドル円はやはり円安ドル高に向かう可能性が高いと見ている。
     
  3. ただし、今後も米政権による保護主義やドル安志向に対する警戒、日銀の緩和縮小観測は払拭されず、円安ドル高の進行を抑制しそうだ。また、米株価には未だ過熱感や割高感があるだけに、今後も米金利上昇への警戒が高まる局面で、一時的に米株安を通じたリスク回避的な円高が起こる可能性が高い。今後のドル円は円安ドル高に向かうものの、そのペースは緩やかなものとなり、たびたび円高局面を挟む展開が予想される。
名目実効レートの騰落率(昨年末→1/29)
■目次

1.トピック:今回の円高はいつもと違う
  ・米金利上昇なのに円高ドル安
  ・ドル高シナリオの再考
2.日銀金融政策(1月):早期緩和縮小観測の打ち消しに注力
  ・(日銀)現状維持
3.金融市場(1月)の振り返りと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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