2018年01月30日

【ロシア経済】2018年の見通し~2018年の成長率は2017年からほぼ横ばい~

神戸 雄堂

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1――はじめに

ロシアは2018年に大統領選挙(3月18日)とサッカーワールドカップ(6月14日~7月15日)という大きなイベントを控えており、世界的に注目度が高まっている。日本との関係においても、2018年に「ロシアにおける日本年」及び「日本におけるロシア年」1が相互に開催される他、5月には安倍首相のロシア訪問も予定されており、二国間関係の発展が期待される。

また、経済面においては、ロシアは原油価格の低迷によって2015年、16年と2年連続で景気後退に陥ったが、原油価格の持ち直しを受けて2017年には3年ぶりのプラス成長を達成するものと思われ、2018年も2年連続のプラス成長が見込まれている。そこで、本稿では2017年までのロシア経済を振り返ったうえで、2018年の展望を述べることとする。
 
1 日露間における人的交流の拡大に向けた方策の一つとして、2018年に日本とロシア両国において二国間関係の政治や経済など様々な分野に関する大規模行事が実施される。
 

2――近年のロシア経済

2――近年のロシア経済

1ロシア経済の特徴
ロシア経済の特徴として原油価格の影響が極めて大きいことが挙げられる。図表1の通り、実質GDP等の経済指標は原油価格の動きと連動している。
(図表1)原油価格と各種経済指標の推移 年によって変動はあるものの、石油・天然ガスなどの鉱物製品がロシアの輸出総額の約3分の2を占めており、また石油・天然ガス関連の収入が連邦政府の歳入の約4割を占めている。原油価格はGDP統計における純輸出や政府消費にも影響を与える他、為替の変動を通じて2物価にも影響を与えるため、民間消費やさらにはエネルギー関連企業等の投資にも影響を与える。このように、ロシア経済は原油価格の変動に左右されやすい構造となっている。
 
2 ロシアは2014年に変動相場制へ移行した。
2近年の経済動向
2000年代以降、中国をはじめとする新興国の石油需要の拡大を背景に原油価格の上昇が続いたため、ロシア経済は5%を上回るプラス成長が続いた。しかし、2008年のリーマンショックによる世界経済の落ち込みによって石油需要が落ち込むと、原油価格は急落し、2009年のロシア経済はマイナス成長に転じた。その後、中国の大型景気刺激策による新興国の需要回復と先進国の大規模な金融緩和に伴う緩和マネーの原油市場への流入によって原油価格が急騰し、ロシア経済は持ち直した。しかし、2011年半ばから新興国経済が再び減速に転じるとともに、米国のシェールオイル増産によって石油の需給が緩和されると、2014年末には原油価格が急落し、資源ブームは終焉を迎えた。

また、ルーブル相場も原油価格と連動している。資源ブーム終焉の他、2014年11月にロシア連邦中央銀行がルーブルを切り下げ、管理相場制から変動相場制に移行したことによって、為替は大きくルーブル安方向に進んだ(図表2)。その結果、輸入物価の上昇を通じて、インフレ率は2015年には15%以上にまで上昇した。中央銀行は、2014年にインフレ抑制のため、金融引き締めを強化し、14年末には政策金利を17.0%まで引き上げた(図表3)。これらの結果、ロシア経済は、2015年、16年と、2年連続の景気後退に陥った。
(図表2)原油価格と為替相場の推移/(図表3)インフレ率と政策金利・長期金利の推移
また、一般的に欧米諸国による経済制裁もロシア経済が景気後退に陥った一因として挙げられる。2014年3月にロシアがウクライナのクリミア半島を併合すると、欧米諸国はロシアに対して経済制裁を発動、ロシアも報復措置を講じた(図表4)。
(図表4)欧米諸国による経済制裁、ロシアの報復制裁の内容 欧米諸国の経済制裁がロシア経済に与えた影響度合いについては専門家の中でも意見が分かれており、限定的という意見もある。しかし、ロシアが報復措置として欧米諸国からの農産物輸入を禁止した結果、食料品価格が高騰し、消費が低迷する一因となった。また、少なくとも欧米諸国からの資源関連技術の流入停止が中長期的には国内産業の成長の制約要因になると考えられる。ロシアは輸入代替政策によって自国産業の育成を推し進めており、食料品や化学製品など一部の品目では生産量が増加しているものの、産業全体では大きな変化は見られない。
 

3――2017年のロシア経済

3――2017年のロシア経済

1経済概況 民間消費が牽引し、2017年はプラス成長達成の見通し。
当節では現時点で公表されている2017年1-9月期までのGDP統計をもとに2017年のロシア経済について触れたい3

2017年12月12日、ロシア連邦統計局は、2017年7-9月期のGDP統計を公表した。2017年1月-9月までの3四半期累計では、実質GDP成長率は前年同期比1.6%増(原系列)となっており、2017年は2014年以来3年ぶりのプラス成長達成が見込まれる。
(図表5)【需要項目別】実質GDP成長率の推移 2017年のGDPを需要項目別に見ると、外需寄与度はマイナスに転じたものの、内需は好調の続く民間消費が牽引した(図表5)。

純輸出は3四半期連続のマイナス成長となった。1-3月期に成長率寄与度がマイナスに転じた後、4-6月期にさらに悪化したが、7-9月期は若干改善した。国内需要の回復によって輸入の増加が輸出の増加を上回り、純輸出の減少につながった。

一方で内需は、GDPの約5割を占める民間消費4が、インフレ率低下に伴う消費者マインドの改善によって、3四半期連続のプラス成長となった。1-3月期に前年同期比でプラスに転じて以降、好調を維持している。
政府消費は3四半期連続のプラス成長となった。1-3月期に前年同期比でプラスに転じて以降、伸び率はほぼ横ばいとなっている。

総固定資本形成は3四半期連続のプラス成長となった。1-3月期に前年同期比でプラスに転じた後、4-6月期に大きく伸びたものの、7-9月期は鈍化した。政府主導の大規模なインフラ整備の本格化が、総固定資本形成を押し上げたと見られる。
(図表6)【供給項目別】実質GDP成長率の推移 供給項目別に見ると、主に小売・卸売を中心とするサービス業が牽引役となった(図表6)。

農林水産業は1-3月期こそ前年同期比でマイナスとなったものの、4-6月期、7-9月期と2四半期連続の同プラス成長となり、2017年の穀物生産が過去最多に達したことが寄与したと見られる。

鉱工業は3四半期連続のプラス成長となったものの、7-9月期は鈍化した。原油価格の持ち直しを受けて鉱業が牽引役となった。

サービス業は16年10-12月期に続き、4四半期連続のプラス成長となった。民間消費の回復を受けて小売・卸売が牽引役となった。
 
 
3 ロシアの2017年GDPは18年3月下旬に公表予定。
4 家計と民間非営利団体の消費の合計。
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