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EIOPAがソルベンシーIIレビューに関する第1の助言セットを欧州委員会に提出
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1―はじめに
EIOPAは、こうした意見も踏まえて、さらなる検討を進めていたが、2017年10月30日に、「ソルベンシーII委任規則の特定項目のレビューに関する第1の助言セット」(以下、「第1の助言セット」という)をまとめて、欧州委員会に提出した、と公表5した。
今回のレポートでは、この第1の助言セットについて、その概要を報告する。
1 https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-consults-on-its-first-set-of-advice-on-the-Solvency-II-review-.aspx
https://eiopa.europa.eu/Publications/Consultations/EIOPA-CP-17-004_Consultation_Paper_on_First_set_of_Advice_on_SII_DR_Review.pdf
2 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=56428?site=nli
3 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=56439?site=nli
4 http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=56601?site=nli
5 プレスリリース:https://safe.menlosecurity.com/docview/viewer/docN4957E731F6344c7a3f778f4a2f279a58f77252cf7b9a9395cae69faafd3f3691f6b108956b72
報告書:https://safe.menlosecurity.com/docview/viewer/docN4957E731F634c0c205085834d46138e51925476e5000d0ea7fd891c9a92a6beca599fb42cacd
2―今回の第1の助言セットの概要
ソルベンシーIIのレビューは、ソルベンシーII指令の立法文書に従う正式なプロセスである。ソルベンシーⅡ委任規則のリサイタル150は、ソルベンシー資本要件の標準式の見直しのためのタイムラインを定義している。レビューの第1段階は、2018年12月までに欧州委員会によって最終決定され、ソルベンシーIIの枠組みは2021年までに見直される予定となっている。
欧州委員会は、ソルベンシー資本要件を標準式で計算する際に使用される方法、前提及び標準パラメータを検討する意向を表明し、2016年7月に、EIOPAに対して、具体的にいくつかの項目に関する技術的助言6を提供するように依頼した。
これを受けて、EIOPAは検討を進め、2016年12月に「ソルベンシーII委任規則の特定項目のレビューに関するディスカッション・ペーパー」を公表した7。
さらに、これに対する関係者からの意見を踏まえて、2017年7月4日に「ソルベンシーII委任規則の特定項目に関する欧州委員会へのEIOPAの第1の助言セットに関するコンサルテーション・ペーパー(CP)」を公表した。
6 REQUEST TO EIOPA FOR TECHNICAL ADVICE ON THE REVIEW OF SPECIFIC ITEMS IN THE SOLVENCY II DELEGATED REGULATION (Regulation (EU) 2015/35)
http://ec.europa.eu/finance/insurance/docs/news/call-for-advice-to-eiopa_en.pdf#search='Ref.Ares%282016%293573955'
7「Discussion Paper on the review of specific items in the Solvency II Delegated Regulation」( EIOPA-CP-16/008
5 December 2016)
https://eiopa.europa.eu/Pages/Consultations/Overview.aspx
今回の助言セットは、このCPに対するステークホルダーからのコメントをEIOPAが分析し、必要に応じて、修正を行ったものである。 EIOPAは、パブリック・コンサルテーションの間に受け取った主なコメントの要約を提供し、受け取った各コメントに応えている。
EIOPAは2つのセットで助言を提供しようとしているが、これは第1の助言セットである。第2の助言セットは、2018年2月末までに欧州委員会に提出される予定となっている8。この第1の助言セットは、2018年2月末までに更に更新される可能性があるが、更新が特定されない場合、今回の文書におけるEIOPAによる助言は最終的なものとなる。
この助言は、以下の8つの分野をカバーしている。
1.簡素化された計算
2.外部信用格付けへの依存度
3.保証されたエクスポージャー及び地域政府と地方自治体(Regional Governments and Local Authorities:RGLA)へのエクスポージャー
4.リスク軽減技術
5.会社固有のパラメータ(Undertaking Specific Parameter:USP)
6.投資関連会社へのルックスルー・アプローチ
7.繰延税金の損失吸収能力(Loss Absorbing Capacity of Deferred Taxes :LAC DT)
8.影響評価
助言は、上記の8つの領域をカバーする8つの章に分かれている。最初の6つの章はそれぞれ同じ構造に従っており、(1)助言要求からの抜粋、(2)法的根拠、(3)EIOPAの助言、(4)分析、(5)助言(法的事項の関連する提案がある場合)、となっている。繰延税金の損失吸収能力に関する第7章は、情報提供のみを行っている。このトピックの助言は別のコンサルテーション・ペーパーで取り扱われる。第8章では、この助言の策定中に検討された政策オプションの影響評価を提供している。
8 第2の助言セットでは、以下の項目がカバーされることになっている。:(1)リスクマージン、(2)自己資本、(3)繰延税金の損失吸収能力に関する政策オプション、(4)カタストロフィーリスク、(5)保険料及び責任準備金リスク、(6)死亡率及び長寿リスク、(7)カウンターパーティ・デフォールトリスク、(8)グループレベルでの通貨リスク、(9)金利リスク、(10)ルックスルーの簡素化、(11)未評価債務、(12)非上場株式及び戦略的参加
EIOPAのプレスリリース資料によれば、今回の第1の助言セットは、以下のように特徴付けられている。
(1)ソルベンシー資本要件(SCR)標準式に焦点を当てている。
(2)EIOPAは資本要件の計算の簡素化と改善を助言している。
(3)EIOPAの目標は、保険業界に、比例的で、技術的に堅牢で、リスクに敏感で、一貫した監督体制を確保することである。
EIOPAによるプレスリリースは、以下の通りである。
2017年10月30日
EIOPAは資本要件の計算に簡略化を推奨
・欧州委員会に対するEIOPAの最初の助言は、ソルベンシー資本要件(SCR)標準式に焦点を当てている。
・EIOPAは資本要件の計算の簡素化と改善を助言する。
・EIOPAの目標は、保険業界に、比例的で、技術的に堅牢で、リスクに敏感で、一貫した監督体制を確保することである。
フランクフルト、2017年10月30日 – 本日、欧州保険年金監督局(EIOPA)は、ソルベンシーII委任規則の特定の項目のレビューについて、欧州委員会に第1の助言セットを提出した。この助言は、ソルベンシー資本要件(SCR)標準式の資本要件の簡素化された計算を提案している。この変更により、解約率や死亡率などのリスクの計算が簡素化されることが予測される。SCRの計算における外部信用格付けに対する保険会社の過度の依存を減らすために、EIOPAは、信用格付機関を1つだけ指名し、信用度ステップ3(すなわちBBB格付け)の対象となる残りの非複合資産の資本要件を計算することにより、簡素化された計算を適用することを推奨している。
EIOPAは、地域政府や地方自治体が発行した非上場の保証のための新しい資産クラスを作成し、保険と銀行の枠組みを整理し、計算のリスク感応度を向上させることを助言している。 さらに、助言は、保険者のために投資する関連会社にルックスルー・アプローチを適用する必要性を認識している。 また、リスクプロファイルのより良い反映を可能にするために、ストップロス再保険のための会社固有のパラメータの使用の提案も含んでいる。リスク軽減技術に関して、EIOPAは、エクスポージャーが頻繁に変化する金融リスクをヘッジするための戦略をよりよく認識することを推奨している。
後に、EIOPAは監督及び業界慣行を含む欧州経済圏における繰延税金の損失吸収能力(LAC DT)の分析を実施した。分析の結果は、国家監督当局は、1,000億ユーロのLAC DTの75%に対して同様の監督慣行を使用していることを示している。 LAC DTの残り25%の監督慣行の収束について、EIOPAは2018年2月に、さらなる要素を提供する予定である。
EIOPAのGabriel Bernardino会長は、「この第1の助言セットは、保険セクターに対する、比例的で、技術的に堅牢で、リスクに敏感な一貫した監督体制を維持するとともに、その複雑さを軽減するための標準式の重要な側面をカバーしている。この助言は、証拠に基づいており、ソルベンシーIIの枠組みの見直しにおける最初の重要なステップである。
この第1の助言セットは、欧州委員会から受け取った最初の要請についてのフォローアップである。 第2の助言セットは、リスクマージンの算定における資本コスト、損害保険及び生命保険の引受リスク、カタストロフィーリスク、未評価債務及び非上場株式の計算などの項目の分析に焦点を当てる。EIOPAは、2018年2月までに、それを欧州委員会に提出する予定である。
助言はEIOPAのウェブサイトから入手できる。
(2017年11月07日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
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