2017年02月15日

サービス・グローバル企業のアジアにおける事業展開の研究(4):外資とアジア地場の有力小売企業の動向

平賀 富一

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2|アジアの有力小売企業グループの動向
次に、上記のデロイトによる2015年の世界小売り企業250位データ(2017年公表)を用いて、アジアの地場小売企業の実力と動向を見ることにしたい。
図表-4 アジア地域の20大・小売企業の業容・国際展開等の現状・変化
(1) 世界ランキングで、20位以内に入っている日本のイオンとセブン&アイが、アジア地域の1-2位であるが、それに次ぐ3位は、中国のEC企業であるJD.com(京東商城)であり、同社の世界ランキングは、2015年に36位となっている(2005年・2010年には250位内に入っていなかった)。

同社の躍進は、中国においてインターネットとその関連サービスが急速に発展していることを示すものである6

因みに、経済産業省(2016)によれば、2015年の中国のEC(BtoCベース)の市場規模は、世界のトップであり、図表-5のとおり、その金額は6720.1億ドル(対前年42.1%増)、2位が米国の3406億ドル(14.2%)、3位英国993.9億ドル(14.5%)、4位日本895.5億ドル(14.0%)、5位ドイツ618.4億ドル(12.0%)となっている。またECのベースとなる各国のマクロ環境は図表-6のようになっている。
図表-5 世界各国のBtoCベースEC市場規模(2015年・2014年:単位億ドル)/図表-6 日本・米国・中国のECマクロ環境
 
6 京東商城は、中国のインターネット関連企業としては4位にランクされる。その上位3社であるアリババ、テンセント、百度(BAT)と京東商城は、世界のインターネット企業の株式時価総額ランキングの上位10社ランキングで、米国のGoogle、Amazon、Facebookの1-3位に次ぐポジション(4位アリババ、5位テンセント、7位百度、10位京東商城)となっている。日本企業はランクに入っていない(関、2015)による。また、中国のBtoCベースのEC取引で、直販(自社販売)分野においては、京東商城がトップシェアであるが、ECプラットフォームとしての取引を含めた販売全体では、アリババグループの天猫(Tmall)が2015年56.8%と最大のシェアであり、京東商城が2位で22.4%と両社が二強となっている。
(2) 次に、図表-4のランキングを国・地域別にみると以下の点が指摘できる。

・ランクインした国・地域別の企業数は、日本9社、中国5社、香港3社、韓国2社、タイ1社である。

・日本企業の中では、イオンとセブン&アイに次いで、ファーストリテイリング(ユニクロブランド等)が8位となっているが、同社は30もの海外市場で積極的に展開している。

・中国については、上記の京東商城の他は、蘇寧電器(5位:家電量販店)、華潤万家(7位:総合スーパー等)、国美電器(9位:家電量販店)、上海百聯(17位:総合スーパー等)である。

・香港は、A.S.Watson(屈臣氏6位:ドラッグストア・薬局)、Dairy Farm(牛奶國際12位:スーパーマーケット)が、それぞれ24と10の国・地域の海外市場に進出している。Dairy Farmはマレーシア小売市場で2位のイオンの上を行く業界首位の座にある。また、香港で、上記2社に次ぐ、Chow Tai Fook Jewellery(周大福ジュエリー:18位)は、宝石店の大手として著名である。

・韓国の2社は、上述のロッテ(4位)とE-MART(12位)である。後者は、サムスングループから分離設立された新世界グループによる大型スーパーマーケットチェーンであり、1997年からは中国に進出している。

・タイのCP ALLは、アグリビジネス、小売業、通信、金融・保険などの事業を幅広く行うアジア有数の華人系企業グループであるCPグループ7の小売部門であり、上記の通り、セブンイレブンのタイにおけるライセンス権を有し、約8800店を運営している。また中国においても、CPグループ(中国名は正大集団)は幅広く事業を展開しており、小売事業は、ト蜂蓮花(Lotus)としてショッピングセンターを展開している(小売チェーン企業のランキング(中国連鎖経営協会(2016)で46位)。
 
上記のアジア域内の20位ランキングの補足情報として、世界の250位ランキングに入ったアジアの小売企業の国・地域別の状況を挙げることとしたい。
図表-7 世界の小売・売上高上位2 5 0位ランキングに入ったアジアの小売企業数(国・地域別:社)
上記の図表-7のとおり、カバーする範囲を世界250位まで広げてみるとさらに興味深いポイントがある。主要な点を以下に述べよう。

先ず、国別の企業数は、2015年で、日本が30社と最大であるが、2005年・2010年と比較して漸減している。中国は、2005年の0から、2010年4社、2015年の10社と急増している。韓国・香港の企業も増加している。台湾では、セブンイレブンの店舗を、台湾・上海等でライセンス展開するPresident(統一)グループが2005年以来250位以内に入っている。タイでは、CPグループに加え、ファミリーマートの展開も含めデパート・外食などを幅広く展開するCentral(セントラル)グループ8が、ランクインしている。さらに、2005年・2010年には1社も入っていなかったインドネシアとフィリピンからも、2015年にはランキングインしている(インドネシアの2社は、大手コンビニエンスストアを運営するIndomarco Prismatama (Indomaret)とSumber Alfaria Trijaya
(Alfamart)であり、後者のSumber Alfaria Trijaya(サリムグループ系)とフィリピンのSM(総合スーパー等)は華人系の有力企業である)。

このように、アセアンを含むアジア各国の有力企業について、世界的にみても、その実力やポジションの上昇ぶりが上記の状況からも理解できよう。
 
7 詳細は、平賀(2015)を参照。
8 セントラルグループは、イタリア・デンマーク・ドイツで、地場の老舗デパートを買収し運営を行っている。また日本の外食チェーンである「大戸屋」、「吉野家」、「ミスタードーナツ」、「ペッパーランチ」、「ビアード・パパ」などをタイでフランチャイズ展開している(平賀、2015等)。
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平賀 富一

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