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ある町に非常に危険な道路があった。近くに住宅街や小学校のある道路で歩行者が多かったが、幹線道路の抜け道にもなっていて、多くの車は猛スピードで突っ込んできた。地元の住人は、誰もがその危険性に気付いていた。実際に何度も危ない思いをしている。子どもも多く、心配でたまらなかった。そこで、歩道と車道の塗り分けを実施するなど、歩行者が安全に通行できるようにする何らかの対策を要望した。しかし「事故は起きていない」ことなどから、対応は見送られてきた。
そして、とうとう悲惨な事故が発生した。子どもが自動車にひかれ、重傷を負ってしまったのである。地元の住人からすれば、起こるべくして起こった事故であった。そして、ようやく歩道と車道の塗り分けなどが実施され、歩行者も安全に通行できるようになったのである。このように実際に事故が起きないと対策が実施されないということは、いろいろな場面で発生してないだろうか。
日本の財政はどうか。債務残高は既に1,000兆円を超え、GDP対比では224%1と先進国の中では突出している。他の先進国は概ね100%程度であるから、日本の突出ぶりがいかに大きいかが分かる。個人に例えて言うと、2年間飲まず食わずで働いても返済できない債務を抱えている、ということだろう。何故大丈夫なのか、債権者が日本国民自身であるからとのことであるが不安要素も多い。
これだけ大きな債務を抱えているにもかかわらず、毎年80兆円2もの歳出が発生している。それを賄う税収等は毎年40兆円程度しかなく、残額は更に借金をして債務残高がまた増えていくという構造である。景気が良くなれば税収が増えるから大丈夫だと言う人もいるが、景気だけで税収が2倍になるとは思えない。これまで最も税収が多かった(バブル景気の影響を受けた)1992年ですら62兆円程度である。現在の税体系では80兆円もの歳出を賄えないことは明らかである。歳入(税収)を増やす対応は早急に必要と考えられる。
一方で歳出の抑制も進めなければならない。増税して歳入が増えるのだから、歳出も増やして良いと考える向きもあるようだが、それではいつまでも問題が解決しない。歳入は歳入で努力し、歳出は歳出で努力すべきではないだろうか。多くの国民が涙を呑んで増税を容認しているのは、歳出(社会保障など)を更に増やしてもらいたいという期待だけではなく、財政状況に配慮してその影響が将来世代に回らないようにするためでもあるだろう。
「事故(デフォルト)は起きてないからまだ大丈夫だ」ということではいけないはず。問題を先送りすると利払費なども増えることから、解決はより難しくなる。いつの時代でも犠牲を受けやすいのは弱い人(子ども)たちからである。大人には子どもを守る義務があるはず。我が身を守ることも必要であるが、先人から授かったもの以上のものを後人に授けることができなければ、後の歴史で非難されないだろうか。歳入(消費税増税)の目処がついた後(または同時)には、歳出抑制の議論がより活発になることを期待したい。
(2013年09月02日「研究員の眼」)
千田 英明
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