コラム
2013年04月16日

『極度乾燥しなさい』 is so cool!-ネットを捨てよ、海外の街へ出よう-

中村 昭

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私の次男は、卒業前のこの2~3月に、友人と海外旅行に行ってまいりました。「就職すると、長期休暇は取りづらいから、学生の間にできるかぎり長期の海外旅行に行くべし」との、私からの強い教育的指導もあって、欧州6カ国を巡る20日間の学生専用ツアーに参加してきたのです。初めて目にした欧州は、すべてが感動の対象であったようであり、名所旧跡や街角の日常風景を、たくさんのスナップ写真に収めて帰ってまいりました。

さて、その中に、『極度乾燥しなさい SUPERDRY』とか、『東京な SUPERDRY』とかのロゴが描かれたバッグやジャケットを、現地の若者たちが誇らしげに身につけて、颯爽と街を闊歩しているスナップ写真が、いくつもありました。次男によると、欧州のありとあらゆる街角で、この変てこな日本語のロゴを見かけたそうです。
   調べてみますと、この「SUPERDRY」のロゴを使ったブランドは、ロンドンの洋服店により、2003年に発表されたものでした。発表後すぐにブームが巻き起こり、この洋服店は世界中(除く日本!)に店舗展開をする大上場企業へと急成長しています。ブランド名の由来は、洋服店のオーナーが、たまたま日本旅行中に飲んだあるビールのうまさと、英語を母国語とする人には驚きを与える、そのビールのネーミングそのものに、強烈な印象を抱いたことによります。彼は、帰国後すぐに、強烈な印象をそのまま生かしたブランド名を考案・発表したそうです。

日本では、アルファベットに対する憧れからか、外国語のロゴや、ローマ字のロゴが巷にあふれています。一方、表音文字しか持たないアルファベット圏の人々にとっては、表意文字である漢字自体が、たいそうエキゾチックにみえるのでしょう。そして、漫画やアニメを始めとする『JAPAN COOL』ブームの影響もあって、中国の文字である漢字そのものだけの表記よりも、日本の文字である漢字+かなの表記のほうが、ロゴとして流行っているようです。このブランドだけではなく、日本語のロゴは欧州の巷にあふれていて、欧州人の日本に対する関心の強さを、現地を巡ることにより改めて実感できたそうです。やはり、海外に出かけて見聞を広めることは、例え物見遊山の旅行であっても、多くの示唆を与えてくれるようです。

しかしながら、今の若者は、英語や外国語を学ぶ意欲は高いようですが、実際に海外に旅に出て、現地の生の姿に触れてやろうという意欲はさほど高くないようです。

実は、34年前、私自身も欧州9カ国を巡る27日間の学生専用ツアーに参加して、今でも記憶に残る数々の貴重な体験を得ることができました。当時は、多くの学生が、卒業前のラストチャンス期間を活用して、可能な限り長期の旅行に旅立っていました。また、このニーズを取り込むべく、多くの旅行会社が20日~30日くらいのツアー商品を、競って売り出していました。
   一方、現在の状況は様変わりしています。そもそも学生向けの海外ツアー商品は減少していますし、その内容も、勤め人の休暇旅行と大差のない、6~7日程度の旅程のプランばかりです。次男が探し出しました20日間のツアーが、唯一の10日間を超える長期プランでした。このプランは、最大手の旅行会社が、「若者の海外旅行へのニーズを絶やしてはならない」との使命感から、赤字覚悟で開催を続けている商品だったようです。(事実、希望者が少なく16人規模での催行であり、かつての45人規模(バス1台の上限人数)での満杯の催行と比べると、本当に採算を取るのが厳しい状況であろうと推察されます。)

今の若者は、就職活動も大変だし、経済的にも厳しいので、海外旅行になど行く余裕がないのだ…との見方もあります。しかし、34年前の学生たちも、(1)就職活動解禁は4年生の10月1日以降であり、今の学生より就職内定時期は、はるかに遅かった、(2)親も学生もゆとりはなく、旅行費用はフルローンで借りて、就職してから返済した、(3)1ドル=200円程度の為替レート水準のため、円はとても安く海外での使用価値はとんでもなく小さかった、という幾多の困難を乗り越えて、とにかく旅立ったのでした。

インターネットの普及により、自宅に居ながらにして、世界の事情を、文章や画像や動画で把握できるようになりました。しかし、やはり、「百聞は一見に如かず」であるし、「百ネットサーフィンも一リアルに如かず」だと思います。
   寺山修司さんの「書を捨てよ、町へ出よう」というメッセージに、かつての若者は胸を躍らせました。あやかりまして、今の若者のみなさんに一言。「ネットを捨てよ、海外の街へ出よう」。



 
 1 「就職内定者旅行ローン」という銀行ローンがあり、就職内定者は在学中に無担保で旅行費用の融資を受けられ、就職した後に毎月の給与から元利返済していけばよいという仕組みであった。
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