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昨年の秋から、賃貸住宅の着工戸数が、分譲や注文一戸建てを大幅に上回る勢いで増加している。この背景には、J-REITや私募ファンドによる賃貸マンション投資が引き続き好調なことに加え、2014年度以降に予定される消費税の増税や相続税の基礎控除枠縮小を見据え、土地オーナーの節税対策が活発になったことがあると思われる。中でも、介護サービス付き高齢者向け賃貸住宅の建設が目立っており、2013年2月時点の登録数は3,143件10万925戸で、大都市を中心に毎月5千~7千戸ベースで増加している1。賃貸住宅は、住宅着工の3分の1以上を占めて、住宅建設市場への影響が大きいだけに今後の動向を注視したい。ところで、一般世帯向け賃貸住宅の企画では、分譲住宅と同様に、QOL(生活の質)向上のための工夫や顧客の多様なニーズに対応しようという姿勢が最近顕著になっている2。また、既存の賃貸住宅でも、空室解消のためにさまざまな工夫がこらされるようになった。
新築住宅では、将来の二世帯化や定年後の安定収入を見据えた自宅併用賃貸の提案、オートロックや廊下を囲う格子型フェンスなど女性が一人でも安心できる防犯設備の導入、保湿効果のある空気循環装置の設置、上層階の生活音を従来の3分の1に低減できる遮音床の採用、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)や家庭用燃料電池、LED照明の導入、制震装置の標準装備、入居者用24時間コールセンターの設置などがある。子育て世帯支援をうたう賃貸マンションでは、母親同志のネットワークを組織化し、建物の一角に配した談話スペースは庭の遊び場に眼が届く設計になっている。一方、既存住宅では、借り手が壁紙を選べたり室内を改造できたりする賃貸マンション、インテリア・コーディネーターが選んだ家具が付いた賃貸マンション、ペット共生住宅に改修した賃貸住宅団地がある。社会人向け寮の空室をまとめて借り上げて留学生向け住宅事業に乗り出す会社、看護士資格者を常駐させて居住者の健康管理をサポートする実験を始めた大型賃貸マンションもある。一戸建て住宅や独身寮などを、他人同士が共同生活するシェアハウスに転用する例も増えている。
以前、このコラムで「親から自立して真面目に働く、若い子育て世帯向けの優良賃貸住宅制度や家賃補助制度を早急に整備すべき」と書いた3。以下は知人からのヒントを基にしたアイデアだが、このような制度の受け皿となる賃貸マンションを、余剰容積のある郊外の「駅ウエ」に造れないものだろうか。郊外では「駅ウエ」といえどもオフィスやホテルの需要は少なく、店舗需要は「駅ナカ」で足りる反面、「駅チカ」での住宅需要は非常に強い。文字通り駅直結なので、雨に濡れずに買い物ができ、通勤通学にも便利、駅だけに建物は堅固で災害への備えもあって安心だ。ここに保育所と病院を併設すれば、子育て世帯には理想的な住宅になる。もし「駅ウエ」に建設できない場合は、「駅ウエ」の余剰容積を「駅チカ」の用地に飛ばす(移す)4 ことができればよい。また、将来の改修や建て替えなどを想定すると、分譲マンションより賃貸マンションの方がよいだろう5。ただし、賃貸は分譲ほど土地コスト負担力がなく事業採算が悪いため、子育て世帯支援という公共目的を根拠に、建設費や家賃を補助する支援制度を組み合わせる。このとき、入居条件を末子の義務教育終了までの定期借家契約として流動性を高め、出来るだけ多くの子育て世帯に恩恵が及ぶよう工夫することも必要だろう。
住宅は売れば終わり、質はともかく数の確保が大事、借家はマイホームまでのつなぎ、ファミリー向け賃貸は公社公団任せ、節税対策は安普請のアパートで、賃貸住宅は建てればすぐに借り手がつく、「住宅すごろく」の上がりは庭付き一戸建て、といった人口増加・高度経済成長時代の住宅ビジネスはもはや過去のものとなった。賃貸住宅の空室は全国で400万戸を超え、おおよそ4戸に1戸が空いている計算になる6 。賃貸住宅も分譲住宅同様、顧客重視の観点から、安心・安全で快適な生活基盤を広く提供することが市場での生き残りに欠かせない。国や地方自治体の政策的後押し7もあって高齢者向け施設建設がブームだが、少子化対策も重要な社会的課題であり、同じように応援して欲しい。そして、「駅ウエ」を活用した子育て世帯支援のような新しい社会的ソリューション(解決策)が、不動産ビジネスとしていくつも生み出されることを期待したい。
(2013年03月13日「研究員の眼」)
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