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地方都市に出張すると、百貨店内にあるティールームを利用して取材や視察の準備をすることが多い。大手カフェチェーンはテーブルや椅子が小さく、たいてい混んでいる上、ダウンライトや間接照明で暗いため、新聞を広げて読んだり資料を見ながらノートにメモをとったりするアナログ的作業には向いていないためだ。タブレット端末やスマートフォンを使いこなせない“昭和な人”と言われそうだが、時間に追われる出張の中で、ひとときゆったりとした空間と時間を消費して英気を養っていると思っている。また、通常、百貨店は最上位所得層向けの商品を主に扱うだけに、各フロアを見て歩けば他都市との売れ筋や客層の違いも実感しやすい。特に、その都市を代表する地元の老舗百貨店の場合、そのエリアが現在も商業地として賑わっているのかそうでないのかによって、街の経済重心や人の流れの変化などもわかって興味深い。
先ごろJR大阪駅前で増床開業した百貨店は、「来店者に楽しさを提供する劇場型百貨店」として、売り場面積の2割をイベントスペースとするなど、消費者をわくわくさせる情報発信機能を強化して話題になっている。この百貨店周辺では、高層のオフィスビルや商業ビル、ホテル、高級分譲マンション建設が相次ぎ、空中や地下の歩行者回廊も整備されるなど、華やかで美しい集客空間としてエリア全体の魅力が高まって相乗効果を上げている。また、公表ベースで昨年度の売上高が日本一となったJR川崎駅前の大型ショッピングセンターには、東京ディズニーランドを上回る年間3千万人以上が訪れる。魅力的な店作りだけでなく、最大1万6千人が入れる広場で年間200回以上も開かれる豪華ゲストを招いたイベントも人気の秘密だといわれる。今後、このような駅前の大型商業施設は、遠方からでもわざわざ出かけていきたくなる「ハレ(晴れ:非日常)」の場として、日帰りのレジャーランド化や観光地化がさらに進むだろう。
最近、リアルな店舗の最大の脅威は、eコマース(ネット通販やネット・スーパーなどインターネットなどを使ったコンピュータネットワーク上の商取引)だといわれる。商業施設を運用するJ-REIT(不動産投信)の投資家説明会では、国内でも海外でも、「eコマースの普及で、運用している店舗での売り上げが減少するのではないか」「不動産の商業施設セクターの先行きは暗いのではないか」という質問が必ずあるそうだ。確かに、ネット・リテラシーが高く、価格比較やオークションのサイトを自由に使いこなす消費者が増加しており、家電量販店などリアルな店舗がショールーム化しているという指摘もある。しかし、その店に実際に行くことでしか得られない楽しさや満足感を消費者に提供できるリアル店舗であるなら、eコマースは怖くないし共存も可能だ。このとき、個々店舗の商品やサービス、空間に加えて、商業施設や街全体も魅力的であればなお心強い。一方、生鮮食料品など日常生活に必要なものを取り扱う地域密着型のスーパーやコンビニエンスストアも、買い物弱者対応などでインターネット販売や宅配の仕組みをさらに充実させながらも、リアル店舗として近隣の生活者を逃がすことはないだろう。
もともと小売業は、消費動向の変化に敏感な景気感応度の高い業種だけに、シニア市場や海外市場の開拓と同様、eコマースの拡大にもうまく対応できるのではないかと楽観している。これに対し、リアル店舗しか扱えない不動産ビジネスでは、“ eコマース時代でも生き残ることのできる店舗を開発・提供できるかどうか ”が、事業の命運を左右することになるはずだ。少なくとも、小売業に売り場を提供するだけの安易な賃貸ビジネスは、今後ますます成り立ちにくくなるだろう。店舗の立地選定や施設計画、有力な借主の誘致、賃貸借契約の工夫や店舗オペレーションを磨く必要があるのは間違いないが、むしろ、レジャー・観光空間やコミュニティの創造、街づくりという大きな視点で商業施設を開発できるプレイヤーとして、来店者が楽しめる商業施設を積極的に提案して欲しい。eコマース時代だからこそ、街づくりのプロとして不動産ビジネスへの期待は大きい。
(2013年01月17日「研究員の眼」)
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