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- 3.11にアーティストはどう向き合ったか ― 水戸芸術館現代美術ギャラリーの展示から
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東日本大震災にアーティストたちはどのように向き合い、行動したのか。それを俯瞰する展覧会が、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催中だ(1)。23組のアーティストが展示するのは、通常の美術展の「作品」ではなく、彼らが大震災後に行った芸術的な営みである。それらは、TVや新聞で頻繁に報道された被災地を訪問する芸能人やタレントたちのアプローチとはまったく異なるものだ。
例えば、立体造形や映像、パフォーマンスなどで風刺的な表現を行うタノタイガ。彼は、震災直後から被災地のがれき撤去のボランティアを始め、それを「タノンティア」と名付けて毎日のように続けた。せんだいメディアテークは彼の活動を後押しするため、2011年5月末から5回にわたって「タノンティア・バスツアー」を実施し、同年9月末から1ヶ月間、その成果を展示する資料展「タノンティア資料室」を開催。今回の水戸芸術館の展覧会でも同じような資料室が展示されている。
仙台を拠点に活動する村上タカシは、震災直後から食料やガソリン、給水などの生活情報を発信し、関係者の協力で集まった支援物資の提供を行うなど、被災地の支援を積極的に展開。その過程で「3.11メモリアルプロジェクト」を立ち上げた。東日本大震災で壊れた「モノ」を収集し、そのままの形で残そうというものだ(仙台市との共同事業)。津波の圧力でねじ曲がった道路標識やドラム缶からは、美術作品以上のメッセージが発せられている。
一方、美術家・映像監督の藤井光は「3.11アートドキュメンテーション」と題して、被災地のアートNPOや文化施設の関係者に震災発生時の様子や震災後の取り組みをインタビューし、動画として記録している(2)。水戸芸術館ではそのうちの5つの記録が展示されているが、それらはTV報道の映像とは大きく異なっている。淡々とした映像からは、その背後にあるものを見つめるアーティストの視線が感じ取れる。
彼は今、被災地の沿岸部や福島の森などの風景を固定動画で記録する「沿岸部風景記録」にも取り組んでいる。今回の展覧会では、2012年8月に福島県飯舘村の森に分け入り、夜明けとともに撮影した映像が巨大なスクリーンで上映されている。まだ薄暗い森の中から時折、鳥のさえずりが聞こえ、木々の幹に反射する朝焼けのオレンジ色が徐々に濃くなっていく。最後に撮影日時や撮影場所の緯度・経度などの情報に加え、撮影時の放射線量が小さくテロップで流れる。緑豊かな自然の中でも、原発事故による放射能汚染が静かに続いている、ということが否応なく突きつけられる作品だ。
これら3人のアーティストたちだけではなく、展覧会に参加するアーティストの活動のほとんどが現在も継続中である。展覧会のタイトルに「進行形の記録」とあるのはそのためだ。
地域再生や教育、福祉など、現代社会の抱える課題に対して、クリエイティブな発想で取り組むアートプロジェクトは全国各地に広がっている。東日本大震災、それはまさしく今の日本が直面する最大の課題であり、アートによって何かが容易に変わるようなものではない。しかし、アーティストならではの感受性やまなざしによって切り取られた被災地の現実と、それらに触発された彼らのアクションからは、多くのことを考えさせられる。
現代社会の課題や矛盾を鋭くえぐり、表出させること。それも「表現」に生涯を捧げるアーティストの社会的使命の一つではないか。だとすると、そのことに荷担する水戸芸術館現代美術ギャラリーの姿勢もまた、美術館の存在意義に一石を投じているように思えてくる。
大震災から1年半が経過し、ともすればその記憶は薄れがちだ。しかし私たちは今もなお、「災後」という時代の転換点のまっただ中にいる。それを再確認するためにもぜひ訪れてみたい展覧会である。
http://arttowermito.or.jp/gallery/gallery02.html?id=331
http://anpoap.org/?category_name=tsutaeru
(2012年11月21日「研究員の眼」)
吉本 光宏 (よしもと みつひろ)
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