コラム
2012年09月26日

血気盛んな高齢者と血気に逸(はや)る高齢者

山田 善志夫

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「敬老の日」に合わせて総務省がまとめた今年の9月15日時点の推計人口によると、65歳以上の高齢者人口は3074万人で過去最多となったそうだ。総人口に占める割合も24.1%となり、同じく過去最高を記録した。

また、今年6月に厚生労働省は、自立して健康に生活できる期間を示す「健康寿命」をはじめて算出し、平成25年度からはじまる次期の国民の健康づくり計画案に「健康寿命を延ばす」という目標を盛り込むこととした。

これらの発表でも分かるとおり、今後、日本では心身ともに健康で、かつ定年退職によって様々な束縛から解放された元気で自由な高齢者がますます増加していくと予想されるが、この元気で自由な高齢者、喩えれば血気(生命を維持する身体の力)盛んな高齢者の増加とともに、血気(激しやすい意気)に逸る高齢者も増加しているということを示す統計が7月に発表されている。

大手民営鉄道、JR、公営鉄道等26社が発表した「鉄道係員に対する暴力行為の件数・発生状況について」によれば、平成23年度に発生した駅係員や乗務員等の鉄道係員に対する暴力行為の件数は過去最多の911件となったとのことである。また、暴力行為発生時に加害者の約6割が飲酒をしており、曜日別の発生件数は金曜日が最多となっている。そして、加害者を年齢別に見ると、驚くことに、60歳代以上が件数で平成22年度に引き続き最多となり、増加率でも20歳代以下に次いで2番目という結果となっている。

好々爺や老婆心という言葉から想起されるとおり、一般的に、人は年を取るにつれてより善良で親切になっていくと思われる。では、今、何故逆に鉄道係員に暴力を振るう高齢者が増えているのだろうか。

定年延長により60歳を超えても就労している人が増えているので、就労や通勤のストレスが原因のひとつとして考えられる。また、逆に、定年退職によって会社や組織の行動規範等から解放され、自制心が働きにくくなっているのかもしれない。さらに、個人の属性や特性以上に、超高齢社会の到来により、60歳を超えても両親や配偶者の介護や看護に従事しなければならない人が増えていることや、独居高齢者の増加とともに、感情が鬱積してもそれをぶつける相手がいない孤独で孤立した高齢者が増えていること等の、社会全体の構造変化が大きく影響しているのではないだろうか。

今後、このような高齢者の暴力行為を少しでも減らしていくためには、当然のこととして、高齢者自身の自覚と自制が必要不可欠であるが、それに加え、高齢者の心理や行動に多大な影響を与えていると思われる年金、医療、介護、雇用等の様々な社会的課題の解決が、今まさに求められている。

筆者もあと1年あまりで60歳を迎えるが、血気盛んな高齢者にはなりたいと思うが、間違っても、週末に浮かれた気分で痛飲して、血気に逸る高齢者にはならないようにしたい。

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山田 善志夫

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