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- 幸せの指標 ― 中国三都市-「家族仲良く」の次に幸せを感じることは?
コラム
2012年05月23日
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「仕事は安定した国家公務員が一番。家族が仲良く、しっかりとした医療制度や年金制度があることが幸せ」
これは2012年、中国の北京、上海、広州で行われた民生調査1 において、どの職業が幸せに見えるか、幸せを表す指標は何かについての回答である。
仕事については新卒の就職率は回復してきているものの、安定重視の「国家公務員」、昨今ではエネルギーや通信分野での高い成長によって、大手を中心に世界的なブランド力を獲得している「国有企業」に人気が集中するのはもっともである。
意外だったのが、幸せを示す指標として「比較的高い収入」といった経済的な豊かさや「比較的高い社会的地位」よりも「医療・年金といった社会保険制度の安定」を選択する人が多いということだ。
確かに中国において医療費負担が重いことは社会問題として取り上げられることもある。経済が発展しており、医療保険制度も他市と比較して整っているこの3地域において、入院者1人あたりの平均医療費は当地域の平均月給のおよそ2~4ヶ月分と高い点は否めない。更に、中国では医療機関をランク分けしており、より設備の整った技術レベルの高い医療機関で治療を受ける場合はより多くの自己負担を支払う仕組みとなっている。しかも日本のようにフリーアクセスではなく、別の地域で入院・通院する場合は全額自己負担となるケースが多い。医療費が毎年10%前後上昇している点も考慮すれば、安心して医療を受けられることは「幸せ」を推し測る上で重要な指標と言えよう。
また、年金については調査の対象者が18歳から60歳とまさに一人っ子政策の影響を強く受けた世代である点が挙げられる。60歳となると、一人っ子政策が開始された時期はまさに結婚・出産年齢にあたり、当該年齢より下の世代は子どもの数が少なく、都市における独居老人の予備軍とされる世代でもある。他方、一人っ子政策、少子高齢化の進展によって、若い世代の社会保険料の負担は増す一方である。一人っ子政策実施後に誕生した1980年代生まれ(80后)、1990年代生まれ(90后)は親世代の手厚い経済支援の下に成長した世代である。その反面、彼らのおよそ3割が親に生活を頼るパラサイト世代とも言われ、親としても子どもによる老後の生活支援を期待できないと考える向きが強いのではないだろうか。
もちろん、前述の収入についても幸せの重要な指標とされている。同調査によれば2012年の収入については全体の44.3%が前年より増加するとし、減少すると予測しているのはわずか6.9%であった。本年も収入、所得といった経済的な豊かさは一層増すことが考えられる。但し、収入層別に見ると、高収入者層の53.4%が収入増加と予測しているのに対して、低収入層は35.5%と少なく、大半の53.6%は変化なしと予測している。「富める者は益々富む」といった傾向に変化はなく、そういった格差を緩和し、より多くの人々に「幸せ」をもたらすためにも社会保障の役割は更に重要になっていくのではないだろうか。
これは2012年、中国の北京、上海、広州で行われた民生調査1 において、どの職業が幸せに見えるか、幸せを表す指標は何かについての回答である。
仕事については新卒の就職率は回復してきているものの、安定重視の「国家公務員」、昨今ではエネルギーや通信分野での高い成長によって、大手を中心に世界的なブランド力を獲得している「国有企業」に人気が集中するのはもっともである。
意外だったのが、幸せを示す指標として「比較的高い収入」といった経済的な豊かさや「比較的高い社会的地位」よりも「医療・年金といった社会保険制度の安定」を選択する人が多いということだ。
確かに中国において医療費負担が重いことは社会問題として取り上げられることもある。経済が発展しており、医療保険制度も他市と比較して整っているこの3地域において、入院者1人あたりの平均医療費は当地域の平均月給のおよそ2~4ヶ月分と高い点は否めない。更に、中国では医療機関をランク分けしており、より設備の整った技術レベルの高い医療機関で治療を受ける場合はより多くの自己負担を支払う仕組みとなっている。しかも日本のようにフリーアクセスではなく、別の地域で入院・通院する場合は全額自己負担となるケースが多い。医療費が毎年10%前後上昇している点も考慮すれば、安心して医療を受けられることは「幸せ」を推し測る上で重要な指標と言えよう。
また、年金については調査の対象者が18歳から60歳とまさに一人っ子政策の影響を強く受けた世代である点が挙げられる。60歳となると、一人っ子政策が開始された時期はまさに結婚・出産年齢にあたり、当該年齢より下の世代は子どもの数が少なく、都市における独居老人の予備軍とされる世代でもある。他方、一人っ子政策、少子高齢化の進展によって、若い世代の社会保険料の負担は増す一方である。一人っ子政策実施後に誕生した1980年代生まれ(80后)、1990年代生まれ(90后)は親世代の手厚い経済支援の下に成長した世代である。その反面、彼らのおよそ3割が親に生活を頼るパラサイト世代とも言われ、親としても子どもによる老後の生活支援を期待できないと考える向きが強いのではないだろうか。
もちろん、前述の収入についても幸せの重要な指標とされている。同調査によれば2012年の収入については全体の44.3%が前年より増加するとし、減少すると予測しているのはわずか6.9%であった。本年も収入、所得といった経済的な豊かさは一層増すことが考えられる。但し、収入層別に見ると、高収入者層の53.4%が収入増加と予測しているのに対して、低収入層は35.5%と少なく、大半の53.6%は変化なしと予測している。「富める者は益々富む」といった傾向に変化はなく、そういった格差を緩和し、より多くの人々に「幸せ」をもたらすためにも社会保障の役割は更に重要になっていくのではないだろうか。
1「2012両会民生調査」:北京市、上海市、広州市の18歳~60歳の住民1055名を対象に行われた調査(捜狐ネット、零点研究諮詢集団による)
(2012年05月23日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
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