コラム
2011年07月21日

市川海老蔵丈の舞台復帰を喜ぶ

中村 昭

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新橋演舞場にて、7月2日より七月大歌舞伎が上演されています。今月の公演には、市川海老蔵丈が、昨年末の京都南座顔見世公演の急遽降板以来、約半年振りに舞台復帰していまして、昼夜公演計6演目のうち4演目に出演するという、大車輪の活躍を見せています。

先日、私も演舞場に足を運びましたが、自身の出直し公演とも言える舞台でもあるだけに、海老蔵丈の気迫の籠った演技(特に、昼の部2幕目の、『勧進帳』の『富樫佐衛門』役)は一段と冴え、『成田屋!』『十一代目!』と大向うからの掛け声も常より多く掛かり、ご見物の皆様も拍手喝采を送られていました。

歌舞伎の梨園の子弟は、物心のつくころに初舞台を踏み、以来一筋に稽古と舞台に精進を重ねていきます。海老蔵丈は、まだ33歳の青年ですが、彼から舞台を奪うということは、これまでの30年間にわたる技能・経験の集積を無にし、更にその集積の上に成長進化するであろう可能性までをも無にすることであっただけに、ファンのひとりとして、今月の舞台復帰は本当に喜ばしいものでした。

さて、海老蔵丈の暴行事件発生当初は、所属会社の松竹からも無期限謹慎措置が発表されるなどして、彼の今後の役者生命に関しては、全くの不透明と化した時期もありました。しかしながら、彼が潔く非を非と認め謹慎を実践したことにより、世論も、失敗を許して再度のチャレンジを認めようというムードとなり、今月の舞台復帰が実現しました。今回のケースのように、チャレンジを望む者に対して、広くそれを認められる社会であることが、今後益々重要になると思います。

私が担当しています生活研究部門の研究テーマの内、多くのものは、社会と個人の間における多種多様なチャレンジの可能性を、どう認めていくのか、どうサポートしていくのか、という視座より捉えていくべきテーマであると認識しています。

かって、日本が高度成長期にあり、総人口や働き盛り人口も増加していた時代では、社会参画の場面において、一定の基準をクリアーできる個人のみを選抜して参画させ、基準をクリアーできない個人については、門戸は厳しく閉ざされていました。また、その要求基準の水準は高く、『24時間戦えますか』という、冷静に考えれば不可能な流行語が、何となく許容されていた時代でもありました。

しかしながら、今後更に総人口や働き盛り人口が減少し続けていく中では、画一の基準をクリアーできる人々のみを探し求めるよりも、逆に、多種多様な個人の要求を幅広く満たしていくことにより、社会に参画できる人々の総量を維持していくことが重要になっていくと思います。

チャレンジする人々に、『○○屋!』と声援を送りあえる社会を築いていきたいものです。
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