コラム
2010年03月31日

物価が下がると、赤子が苦しむ!?

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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テレビで、「ガソリン代が高くなると年金生活者は困る」というインタビューを目にすることがある。私は、このような演出色が濃い報道をつい斜に構えて見がちだが、この街の声は正しい指摘をしている。以前は物価上昇にあわせて年金額が増えていたが、現在は、年金財政を健全化するために、物価の伸びより年金額の伸びを抑える仕組みが導入されているからだ。

ただ、財政健全化のための仕組みとはいっても、年金受給者を保護する仕組みも組み込まれている。例えば、(1)物価が上がったときには、年金額の伸びを物価の伸びより抑えるが、改定後の年金額が前年額を下回らない範囲に留める、(2)物価が下がったときには、物価下落分は削減するが、財政健全化のための削減は行わない、という仕組みになっている(年金ストラテジー vol.95参照)。また、従来制度からの移行においても、名目の年金額がなるべく下がらないようにする経過措置が組み込まれている(年金ストラテジー vol.166参照)。

行動経済学や行動ファイナンスの研究によれば、人間には、(1)名目額が増えていれば、実質的な価値が下がっていても利益だと錯覚したり、(2)少額の変化でも減額の場合には損失を過大評価してしまう傾向があるという。現在の年金制度がこれらの理論を踏まえて設計されたかどうかは不明だが、年金の引き出しに通帳を使っている高齢者の姿を思い浮かべると、「記帳された年金額が少しでも減った場合には、大きな混乱になりかねない」と心配する政府の気持ちも分からなくはない。

しかし、「物価下落時は、財政健全化に必要な給付削減は行わない」といった気配りばかりしていると、年金財政の健全化が遅れ、そのツケが将来世代に回ってしまう。高齢者は人数が増えている上に投票率も高いため、彼らに不利な政策を打ち出すのは大変かも知れない。だが、現在の政策決定が将来の子どもたちの負担を決めてしまうことを、忘れてはならないだろう。

先日生まれたばかりの豚児やその子孫が、「この国に生まれたのは巡り合わせが悪かった」などと思わなくて済むよう、先輩世代のはしくれとして頑張りたいと思っている。

(2010年03月31日「研究員の眼」)

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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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