コラム
2009年12月22日

マンションの危機管理機能に注目する

松村 徹

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大都市の住宅ストックに占めるマンションの割合は年々高まっているが、生活騒音やペットを巡るトラブル、駐車場やバルコニー、ゴミ置き場など共用部の利用マナーを巡るトラブル、住民による管理組合運営など、人間関係や維持管理の煩わしさから、戸建てを志向する人は多い。確かに、マンションでは壁や床・天井を隔てて共同生活する以上、そういった問題は起きやすいが、森の中の一軒家でもなければ、戸建てといえども近隣とのトラブルと無縁でないことは、マスコミをにぎわした「騒音おばさん」の例を挙げるまでもない。もちろん、適切な維持管理を怠れば、経年劣化により生活環境が悪化したり、資産価値が低下したりするのは戸建ても同じである。

特に、最近の新築分譲マンションは、二重床・二重天井構造のものが多く、床のコンクリートスラブの厚さも十分あり、古いマンションに比べれば防音性能はかなり高くなっている。戸建住宅を上回る防音性能や密閉性の高さゆえ、自動車の走行音など外部の騒音があまり聞こえない代わりに、マンション内部の小さな音に注意が向きやすくなっているほどだ。

むしろ、最新の大型マンションにみられる、バリアフリーの敷地内・室内動線、警備会社とも提携した二重三重のセキュリティシステム、防災備蓄倉庫1、AED(自動体外式徐細動器)など、戸建てでは実現が難しい危機管理機能の高さに注目すべきだ。毎年の消防訓練を利用して、AEDの講習や備蓄倉庫の棚卸しを行う管理組合もある。災害時に利用できるテントの設営スペースの確保や、炊き出しができるかまどベンチ、仮設トイレ用マンホールの設置など、敷地内に防災上のさまざまな工夫をする大型マンションもある。免震工法の採用と井戸・かまどベンチの設置を基本理念とした賃貸マンションを開発する、地域密着型の不動産会社も有名だ。

また、管理組合のアイデア次第で、危機管理に関わるさまざまな取組が出来ることもマンションという共同住宅の強みであろう。たとえば、インフルエンザ対策として入り口に消毒用アルコールを設置する、ゲリラ豪雨対策として簡易土嚢を備蓄する、子育てに悩む母親を孤立させないようママ会を組成する、独居高齢者の在宅確認の仕組みを作る、などである。住民間のトラブルも、当事者間だけで直接解決するより、管理組合が間に入って調整する方が角の立たない場合が多いと思われるが、これも自治会など旧来の地域コミュニティに代わるマンションコミュニティによる危機管理の例といえよう。今後、住民から選出された理事会が担ってきた管理業務を、外部の専門家に全面的に委託できる仕組みの整備が進めば、マンションの危機管理機能のさらなる向上が期待できる。「安全・安心なマンション」という評価は、資産価値の維持という実利面でも効用があり、対価を支払ってもプロに任せる仕組みは十分受け入れられる素地があるためだ。

ただし、マンションというコミュニティが、地域社会から孤立してまで利己的に安全を追い求めるべきではないし、地域との良好なコミュニケーションなく孤立することはかえって危機管理上問題であろう。敷地を監視カメラと高いフェンス、センサーで囲み、警備厳重な玄関を備える、「ゲイテッド・タウン(城塞都市)」と称する大型マンション計画があるが、繁華街ならともかく、最初から近隣の地域社会を拒絶しているとも受け取られかねない設計思想に危うさを感じる。見通しを良くして死角をなくす、警備会社によるパトロールを実施する、防犯灯や照明を工夫するなど、もう少しソフトなアプローチができないものだろうか。行政や自治会、警察・消防、他のマンション管理組合などと日常的に連携し、災害時には敷地の一部や備蓄倉庫を近隣住民にも解放するなど、地域との共生を志向することこそが真の危機管理に繋がるのではないだろうか。
 
 
1 東京都港区などの自治体は、新築の高層マンションに飲料水や食料などを備蓄する防災倉庫の設置を義務付ける方針だが、顧客の安全志向に応える付加価値として防災備蓄倉庫を売り物にするマンンションも増えている。
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