コラム
2008年04月01日

地価公示では読み取れない不動産マーケットの変兆

松村 徹

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2008年1月時点の地価公示が3月24日に公表された。それによると、全国平均(全用途)で前年比1.7%と、2年連続で上昇した。上昇率は、東京、大阪、名古屋の三大都市圏で特に高かったが、福岡や仙台などの地方中核都市や大都市周辺にも地価上昇が波及した。前年割れが続く地方圏でも、下落幅は縮小した。この情報から、2006年以降、不動産の売買が活発化して、地価上昇が全国的に広がりつつある、と読めるが、不動産マーケットの実態は果たしてそうだろうか。

実は、マーケット関係者の多くは、分譲マンションの売れ行き不振や米国サブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)問題の不動産ファンドへの影響などから、昨年後半以降、活況を呈していた不動産マーケットに変化の兆候を感じていた。このことは、不動産業界の景況インデックスや、民間企業が四半期サイクルで公表している地価調査、あるいは弊社アンケート(2007年10月)などをみても明らかである。しかし、地価公示の前年比変動率をみる限り、不動産マーケットが昨年後半から調整局面に入ったことを読み取れない。

これは、地価公示が、不動産鑑定評価に基づき算定される土地課税などの基準となる重要な指標であることから、過去との連続性や地域間のバランスなどに配慮を欠かせず、結果として、実勢価格の動きと比べて穏やかな動き(小さなボラティリティ)とならざるをえないためである。また、変動率だけでなく、地価の絶対水準も平準化されており、上昇局面では実勢価格より低目に、下降局面では実勢価格より高目になりやすい。さらに、年1回の調査であるため、今回のような期中でのマーケットの変わり目を捉え難い面もある。このため、今回の地価公示は、変動率、価格水準、方向性のいずれの面でも、実態とさらにかい離したものとなってしまった。

もっとも、2006年以前の地価公示では、代表地点における年前半と年後半の変動率が公表されており、上昇率(下落率)の加速や減速が読み取れるようになっていた。しかし、このデータはなぜか2007年以降は開示されなくなった。もう少し正確に言うと、国土交通省ホームページの「記者発表資料」には掲載されていないが、記者クラブで配布される「地価公示説明資料」には掲載されているようだ。今回の地価公示を取り上げた新聞記事の多くが、東京都心部での上昇率鈍化に言及しているのはこのためと思われるが、ホームページしかみていないと、マーケットの変兆を読み誤ってしまうことになる。

この10年、金融機関の不良債権処理を契機に、不動産の証券化・金融商品化が進められてきた。特に、2001年以降はJ-REIT(不動産投資信託)の積極的な情報開示のおかげで、市場の透明性が格段に高まったといえるが、一方で、グローバルなマネーフローの影響を直接受けるようになり、市場の変動リスクが大きくなったのも事実である。1974年の第1回地価公示から35年、ダイナミックに変化する不動産マーケットを俯瞰する重要な指標のひとつとして、その調査頻度や情報開示のあり方を見直す必要があるのではないだろうか。
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