コラム
2007年10月01日

経済成長に必要なサービス業の生産性向上

小本 恵照

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1.進展するサービス経済化

経済成長は、消費、設備投資、公共投資、輸出・輸入などの最終需要の項目の動向に基づいて議論されることが多い。しかし、日本経済は様々な産業によって構成されており、産業の動向によって経済成長を考えることもできる。

産業別の動向で注目されるのは、サービス業の成長である。全産業のGDPに占める割合をみると、1980年には製造業の半分の構成比しかなかったが、持続的にシェアを高め、2000年以降はサービス業が製造業を上回る状況となっている(図表1)。言い換えると、日本経済全体を上回るスピードでサービス業が成長し、日本経済の成長をサービス業が牽引してきたと言えるのである。
図表1 名目GDPに占めるサービス業の構成比の推移
また、総務省の「平成18年事業所・企業統計調査」における従業者数の増加率(2001年から2006年まで)が高い上位10産業をみると、福祉・介護、事業所サービス、情報サービスなどのサービス業が非常に高い伸びを示している(図表2)。これらの産業は、いずれも日本社会の高齢化や情報化に対応したものであり、新たに創出されるニーズをサービス業が吸収していることがわかる。
図表2 従業者数が増加した産業(中分類:2001-2006年)

2.実質ベースでは高まっていないサービス業の産業構成比

サービス業が日本経済を牽引していることが明らかとなったが、これは、あくまでも名目ベースの話である。言い換えると、日常生活において、サービス業のウェイトが高まるという意味でのサービス経済化が進んでいるということである。ところが、物価の変動を除外した実質ベースで産業の動向をみるとかなり違った姿となる。1980年から2003年までの実質GDPにおける構成比を見ると、サービス業と製造業の割合はほとんど変化していない(図表3)。

名目ベースではサービス経済化が明瞭に進んでいるのに、実質ベースでは全く進んでいないのは、サービス業のサービス価格が製造業の製品に比べ、相対的に上昇していることによるものである。これは、家電製品で価格が一定でも機能が向上されれば価格低下があったとみなされることで明らかなように、サービス業に品質の改善、言い換えると生産性があまり上昇していないことを反映している面が大きい。
図表3 実質GDPに占めるサービス業の構成比の推移

3.期待されるサービス産業の生産性の向上

サービス経済化が進み名目ベースにおけるサービス業のウェイトが高まるにつれ、サービス業の成長率が日本経済全体の成長率に与える影響はより大きくなる。サービス業の生産性が低いものにとどまる限り、日本の実質経済成長率も低位にとどまることを余儀なくされることになる。日本経済が成長率を高める上で、サービス業の生産性の向上が求められていると言える。

サービス業の産業特性としては、新規参入や撤退が多く、非常に競争が激しいことを挙げることができる。競争が厳しいにもかかわらず、生産性の上昇率が低いことは一種の謎である。一つには、サービスの生産性を測定することが財に比べ難しいことが挙げられる。言い換えると、サービス業の生産性向上が正確に測定されていない可能性である。もう一つは、サービス業への参入者が同質的で、革新的なイノベーションが生まれにくい環境にあるという可能性が挙げられる。

いずれの要因も影響していると考えられるが、後者の要因を解消する手段としては、より革新的なアイデアを持った起業家の参入が必要なのではないだろうか。そのためには、多様な人材をサービス業に呼び込む創業政策の推進や海外企業の参入の促進が有力な手段になると思われる。今後は、サービス業が生産性を高め、サービス業が牽引する形で日本経済の成長率が高まる姿を期待したい。
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