コラム
2006年12月04日

フランチャイズ加盟者の自律性と職務満足度

小本 恵照

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1.事業者としてのフランチャイズ加盟者
フランチャイズ加盟者は自営業者であるが、純粋に独立した自営業者とは性格がかなり異なる。フランチャイズ加盟者は、フランチャイズ本部(フランチャイザー)とフランチャイズ加盟者(フランチャイジー)が構成員となるフランチャイズ・システムの中で活動している。フランチャイズ・システムの中では、フランチャイズ加盟者は、フランチャイズ本部に対して加盟金やロイヤルティ(毎月の売上の一定割合など)などの金銭を支払う。一方、その対価として、フランチャイズ本部から、商標やビジネス・ノウハウなどを使用する権利を与えられ、開業準備や開業後のサポート、教育・研修、広告・宣伝、新製品や新サービスの開発などのサービスを受けることができる。ただし、フランチャイズ加盟者には、商品・サービスの販売方法、取扱商品、営業時間などについて、フランチャイズ本部が定めた基準を遵守しなくてはならないという義務が生じる。
こうした点を踏まえ、全てを自分で決定できる(しなくてはならない)独立自営業者と比較すると、フランチャイズ加盟者の職務活動はかなり制限されることは否めず、仕事の自律性は低くなる。しかし、フランチャイズ加盟者と会社に勤める雇用者とを比較すると、フランチャイズ加盟者のほうが仕事の自律性は高い。フランチャイズ本部からの拘束はあるものの、独立した経営者として自らの責任で店舗運営を行うことができるからである。例えば、従業員の雇用や労働条件の決定、商品の発注、価格決定、広告・宣伝などを自己の裁量で決定し、これを行うことができる。
仕事の自律性という視点からフランチャイズ加盟者の事業者としての性格を考えると、独立自営業者と雇用者の中間に位置する存在になると判断されよう。

2.職務満足度と仕事の自律性
職務満足度は、一般的に「個人の仕事の評価と仕事の経験からもたらされる、喜ばしいもしくは肯定的な感情である。」と定義される。つまり、職務満足度とは、仕事に対する総合的な評価を示す尺度である。職務満足度に関する研究では、自営業者(中小企業経営者)と雇用者との間には、職務満足度に大きな相違があることがわかっている。自営業者の満足度が雇用者の満足度よりも高いのである。自営業者の職務満足度が高いのは、仕事上の自律性が雇用者に比べ高いためと考えられている。自営業者は自ら経営者として自由に会社を切り盛りできるが、雇用者は上司からの指示や組織の慣行・規律に従う必要がある。職務の自律性が低いことが、雇用者の職務満足度を低下させているのである。
しかし、職務の自律性以外の労働条件に目を転じると、自営業者には会社の経営を維持し従業員の生活を守るという重い責任があり、長時間労働を余儀なくされるなど、雇用者に比べ労働条件が必ずしも良好なわけではない。それにもかかわらず、自営業者の職務満足度が高いということは、職務の自律性とその結果としての仕事の達成感などが、労働条件のマイナス要素を補って余りあることを示している。

3.独立自営業者と遜色ない職務満足度
職務の自律性から見て、独立自営業者と雇用者の中間に位置づけられるフランチャイズ加盟者がどのような職務満足度を持っているかは、興味の持たれるところである。2005年度についても、フランチャイズ・ビジネスのチェーン数、店舗数、売上高のいずれについても増加し、フランチャイズ加盟者となる人の増加は続いている。また、団塊世代の退職者の中にはフランチャイズ加盟による独立を目指す人も少なくないなど、フランチャイズ加盟希望者も増えている。こうした人にとっても、フランチャイズ加盟後の職務満足度の水準は大いに関心あることだと思われる。
 

 
そこで、フランチャイズ加盟者と独立自営業者の職務満足度のデータが入手できるアンケート調査を用いて、両者の職務満足度にどの程度の差があるのか検証した。具体的には、国民生活金融公庫総合研究所が、2003年8月に実施した「勤務経験のない業種での開業者に関する調査」の個票データを用いて比較を行った。この調査は、国民生活金融公庫が2001年12月~2002年9月に融資した企業のうち、融資時点で開業後5年以内の全企業に対してアンケートを行ったものである。その中で、「経営者になって良かったと思いますか」という問いがある。これは、職務満足度を示している。そこでは、「非常に思う」に4、「思う」に3、「思わない」に2、「まったく思わない」に1というポイントが割り当てられている。
調査結果を分析すると、フランチャイズ加盟者の平均ポイントは3.11、独立自営業者の平均ポイントは3.12となった。アンケート調査から見る限り、フランチャイズ加盟者と独立自営業者の職務満足度にはほとんど差がないという結果となった。両者の職務満足度に差がないという結論は、フランチャイズ加盟者と独立自営業者が所属する業種構成の違いや年齢・性別などの影響を除外しても変わらない。つまり、年齢などの諸条件を同一として比較しても、フランチャイズ加盟者は独立自営業者とほぼ同水準の職務満足度を得ていると判断されるのである。
過去の研究蓄積から、職務の自律性が職務満足度に大きな影響を与えていることが否定できない事実であることを踏まえると、この結果は、フランチャイズ加盟者はフランチャイズ本部による拘束をそれほど負担に感じることなく仕事をしていることを示していると解釈できる。フランチャイズ加盟者は、職務の自律性の尺度で見ると独立自営業者と雇用者の中間に位置すると述べたが、その相対的な位置はかなり独立自営業者に近いところにあると判断できるように思われる。

(上記の二次分析に当たり、東京大学社会科学研究所附属日本社会研究情報センターSSJデータアーカイブから「勤務経験のない業種での開業者に関する調査, 2003」(寄託者:国民生活金融公庫総合研究所) の個票データの提供を受けました。)
 
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