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- ダラーストア(dollar store)と100円ショップの成長の秘密
コラム
2005年11月21日
1.急成長するダラーストアと100円ショップ 1ドルや100円という均一価格で商品を販売する「ダラーストア(dollar store)」や「100円ショップ」が、日米で急成長している。 米国のダラーストアの成長ぶりを数字でみると、1998年から2004年にかけて、大手3社(ダラー・ゼネラル、ファミリー・ダラー、ダラー・ツリー)の売上は128%増、純利益は135%増、店舗数は94%増と、いずれもほぼ倍増している。同時期の小売販売額の伸びが37%であったことを考えると、これは驚異的な成長である。
一方、わが国の100円ショップの売上をみると(最大手のダイソーと第2位のキャンドゥの売上合計)、1999年度の1590億円から2004年度の3800億円と5年間で約2.5倍の増加を示している(注1)。また、税抜き一律99円で生鮮食品やその他食品を販売する「生鮮コンビニ」と呼ばれる新業態も急成長している。SHOP99がその代表的企業であり、2002~2004年度の2年間で売上2.6倍、経常利益33.6倍、店舗数2.7倍となり、今年度も高成長が続いている。この新業態の成長性に対する期待度は大きく、今年に入り、エーエム・ピーエム・ジャパン、ローソン、スリーエフといったコンビニ各社が新規参入している。 (注1)未上場のダイソーの利益が不明なため、売上のみを記載している。
2.均一価格に伴う購買決定要因の絞り込み 日米で、ほぼ同時期に均一価格での廉価販売を行う業態が急成長しているのは、大変興味深い現象である。では、何が成長を促しているのだろうか。その大きな理由の一つとして、均一価格を提示することによって、消費者が購買の際に考慮すべきファクターを減らし、購買の意思決定過程における思考を簡略化したことを指摘したい。 たとえば、ボールペンを購入する状況を考えてみよう。通常のスーパーでは数種類のボールペンが陳列され、購買に当たっては、メーカー、機能、品質に加え、最重要要因である価格を考慮した上で購買の意思決定を行わなくてはならない。価格は製品ごとにまちまちであり、消費者は、メーカー、機能、品質、価格等の組み合わせの中から最適なものを選択しなくてはならない。一方、100円ショップやダラーストアでは、価格が均一なため、価格要因を考慮する必要がない。また、100円ショップやダラーストアでは、PB商品(プライベート・ブランド商品)が中心で商品の種類も少ない。この点も消費者の意思決定を簡略化する。 シチズン時計の調査(2003年)によると、日本人の時間感覚が変化してきているらしい。電車が何分遅れるとイラ立つかという調査では、10年前の1993年では「10分が限界」という人が55.6%だったものが、2003年には「5分が限界」という人が56.6%を占めている。また、インターネットのサイト画面が表示されるまでの時間について、「10秒」を超えると7割強の人が「イライラする」と回答している。このように、現代人の「せっかち度」は高まっているのである。 この傾向を踏まえると、購買行動においても、よりスムーズに買物を済ませたいという欲求が高まっていると考えられる。特に、100円ショップでの販売の中心である購買頻度の高い少額商品にあっては、なおさらであろう。 3.「小売の輪」理論から見ると、当面、成長は続く 100円ショップやダラーストアの今後の成長はどうなるのだろうか。この点を考える上で一つのヒントとなる考え方に、小売の業態の進化を説明する理論である「小売の輪」というものがある。この理論は、1957年に、ハーバード大学のマックネア(McNair)教授によって提唱されたもので、次のようなことを主張する。
「小売の輪」の理論から考えると、100円ショップやダラーストアの成長は今後どうなるのだろうか。100円ショップやダラーストアは、均一価格とともに廉価販売が大きな特長であり、低価格を武器に既存業態のシェアを奪っている。その意味では、「小売の輪」の理論の主張する低価格を武器にした新業態の出現と考えることができる。一方、新規参入については、100円ショップではある程度新規参入がみられ、ダイエーが100円ショップから撤退するなど競争の激化も始まっている。生鮮コンビニでも今年に入って本格的な新規参入が見られるようになった。同業態の新規参入に伴う競争激化が始まりつつある段階と判断できよう。さらに言えば、非価格競争や「格上げ」については、200円均一や2ドル均一といった高価格商品は登場しているが、今のところはまだあまり進展していない。こうした事実を踏まえると、「小売の輪」のサイクルの段階の中で、100円ショップやダラーストアとは異なる新業態が、新たに出現するほどこの業態は成熟していないと判断される。つまり、ダラーストアや100円ショップという新業態の成長は、当分続くのではないかと結論付けられるのである。 |
(2005年11月21日「エコノミストの眼」)
小本 恵照
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