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2004年厚生年金改革案のリスク分析

北村 智紀

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫
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1.
2004年の年金改革法案の下での厚生年金の財政予測を検証するにあたって、特定の前提を置く決定論的な方法で将来財政を予測すると、いくつかのシナリオの下での給付水準や積立度合の姿について議論できても、全体の姿を完全に把握することは難しい。そこで、本稿では法案の財政方式に準拠しつつも、昨年10月のニッセイ基礎研所報に発表した年金財政モデルを一層高度にした、新たなモンテカルロ・シミュレーション・プログラムを用いて、年金改革法案における将来の財政についてそのリスクを検証した。こうした確率論によるシミュレーション分析は、米国でも2003年版の公的年金財政に関する年次報告の補論に盛り込まれた。
2.
法案は、将来の被保険者数減少や年金受給期間の増加に対応するために、給付を実質的に削減していくルールを具体化している。その財政方式は、従来の給付水準維持方式はもちろん、2002年12月の「方向性と論点」での試案と比べても、年金財政の持続可能性を高める上で大いに寄与する内容となっている。本稿の試算でも、給付水準の50%維持と積立倍率でみた財政の安定が「平均的」には十分達成できることが確認できた。
3.
しかし、平均から離れた場合の下方リスクについて分析すると、マクロ経済スライドを継続していくなら、最終的な給付水準(モデル所得代替率)が45.9%(5%タイル値)まで低下する可能性がある。そのようなケースではモデル所得代替率が2021年に50%を割り込む可能性があり、2015年前後には、マクロ経済スライドを停止する中で、財政バランスを維持するために、法案附則の「所要の措置」の実施を検討せざるを得ない。
4.
その内容としては、まず積立金の取り崩しが考えられる。しかし、2015~2020年には受給者数が最初のピークを迎えるために、2015年頃には積立度合(積立金残高÷支出合計)が3.1倍(5%タイル値)まで低下する可能性があり、財政的に苦しくなると予想される。このため、積立金の取り崩しは、他の施策を検討する時間をつくる対策とはなりえても、恒久的な解決策とするのは難しい。
5.
その他の措置としては、(1)保険料の引き上げ、(2)支給開始年齢の引き上げ、(3)基礎年金国庫負担割合の引き上げ、などが考えられる。シミュレーションによれば、リスク・シナリオの下でモデル所得代替率50%を維持するには、保険料率なら、さらに1~2%の引き上げ、支給開始年齢改定なら1~2歳の引き上げ、国庫負担割合見直しなら法案の50%から10~15%の引き上げ、が求められる結果となった。
6.
今回の法案では、給付抑制のルールを具体化しただけでなく、基礎年金の国庫負担割合や保険料引き上げなど収入を増やす手だても講じられている。この結果、モデル所得代替率の50%維持と財政の安定が「平均的」には達成できるような仕組みを作り上げた点で高く評価できる。しかし、法案に言う「所要の措置」が必要となるほど財政が悪化する下方リスクは残っている。法案が成立した後も、具体的な対応策について引き続き議論を積み重ねる必要があろう。
(2004年03月25日「ニッセイ基礎研所報」)
北村 智紀

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