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コラム
2003年07月07日
1.不安定さを増す日米債券市場 国内債市場では、長期金利が年初来ほぼ一本調子で低下してきた。しかし、6月半ばに金利上昇に転じて以降、日中の変動幅が連日10bp近いものとなるなど、国内債市場は一転して値動きの荒い展開となっている。また、米国債券市場でも10年国債利回りが3.0%台まで低下した後、大幅な金利上昇となっており、日米債券市場ともここにきて動きが不安定だ。 市場関係者の間では、日米とも昨今の債券相場上昇(=長期金利低下)がバブルであるとの認識のもとに、現在の金利水準は低過ぎると考える向きが出始めている。たしかに、世界的なディスインフレ下において、主要各国の中央銀行は景気を底支えすべく金融緩和を積極化しており、流動性供給によって金融市場に浮遊する余剰資金が株・債券・商品はじめ、あらゆるところにバブル的状態を引き起こしうる点には注意を要するだろう。では、はたして日米債券市場とも、現状の低金利をバブルと捉えるべきであろうか? 2.国内債市場の場合 ![]() その結果、投資家は長期国債への投資を通じて収益の獲得を目指し、それが長期金利の水準を押し下げるという、一種の悪循環的な環境に追い詰められた状態が続いているように思える。福井日銀総裁は、先月13日の会見でバブル的要素への心配は理解できるとしながら、「現状の長期金利はバブルではない」との認識を示した。実際、国内の資金需要が低迷し、企業部門の資金余剰が続く中では、成長期待が多少強まったとしても金利先高感が醸成しづらいのは当然であるし、世界的なディスインフレ環境が続く限り、低金利自体が早々に解消されるのは期待薄だろう。しかし、収益機会が限界に近づく中で極度の資金偏在が生じた結果、30年国債利回りが1%を下回るような事態となったことについては、長期金利に対する行き過ぎ感(=バブル)を感じざるを得ない。 3.米国債券市場の場合 一方、米国債券市場を見ると、米国債のイールドカーブを分解した場合、必ずしもカーブ全体が過度の下振れを起こしていないのに気付かされる。例えば、3ヶ月Liborと2年国債の利回り格差を見ると、たしかに利下げ期待を背景に利回り格差が縮小し、2年金利にはこれ以上の低下余地が乏しいことを示す一方で、2-10年あるいは10-30年の利回り格差を見ると、必ずしも格差の縮小が進んでいるわけではなく、むしろ2001年以降の金融緩和局面の中では最も拡大した状態にある。 このように、米国債券市場では長期金利の低下によってイールドカーブに極端な「ブルフラット化」が進んでいるわけではないし、リスクに見合った収益機会は依然として存在しており、現在の短期金利水準(FF金利=1.00%)が正当化できるのであれば、長期債が極端に買われ過ぎているとは言いきれないのではないだろうか。5月以降の長期金利低下があまりにも急激だった点には注意を要するものの、現時点で判断できる限り、米国内でインフレ期待が復活し、FRBが早期に引き締めに転じなければならなくなる可能性は低い。したがって、単に過去との比較で10年国債=3%台の長期金利が「水準的に低過ぎる」と判断するのは早計であると思われる。 さらに、国債以外の債券についても、例えばA格社債の対国債利回り格差は、産業セクターや銘柄ごとに差はあるものの概ね100bp程度、MBS(Mortgage-Backed Securities;住宅ローンを担保に証券化されたもの)の場合は約200bpと、様々なかたちで収益獲得を試みることが可能な状況にあることから見ても、米国債券市場全体がバブルと判断することはできないのではないだろうか。 4.米国債券市場が日本化する可能性は? このように、日米債券市場とも歴史的低金利に直面しているとは言え、前述のようにその中身をひも解いて見れば、必ずしも同一環境にあるわけではない。即ち、リスクに見合った収益機会の有無を見る限り、日本の債券市場には行き過ぎ気味の状態が見受けられた反面、米国債券市場はまだバブルと判断するまでには至っていないようだ。 だからと言って、米国が今後とも「日本化」する可能性がないとは言い切れないだろう。仮に世界経済の供給過剰が世界的なデフレ環境の進展・長期化につながれば、米国でも民間資金需要が一段と後退し、いずれ日本のような状態に陥る危険性を排除することはできまい。その際、イールドカーブの極端な「ブルフラット化」などを通じて収益機会が減少し、米国債券市場でもバブル的様相を呈することになるものと思われる。 |
(2003年07月07日「エコノミストの眼」)
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