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コラム
2003年06月23日
再起・再生には年齢が重要な要素に わが国における創業が停滞している原因の一つとして、一度事業に失敗すると再起することが難しいことが指摘されている。再起が難しい理由としては、(1)周囲の者が、事業に失敗した経営者はまた同じ過ちを繰り返すのではないかと考えてしまうという、失敗に対する日本国民の非寛容な態度、(2)倒産によって資産のほとんどを失ってしまう法制度や融資の在り方などが挙げられることが多い。しかし、倒産企業の実態がつかみにくいこともあって、こうした見方が正確かどうかはっきりしない面が残っている。 ところで、今年の中小企業白書は、倒産企業に対してアンケート調査を実施し、再起に関する興味深い調査を行っている。その中で注目されるのは、倒産企業の経営者の再起業の意思についての調査である。 再起業を志望しない理由をみると、「失敗時の経済的負担が大きかったから」や「失敗時の精神的負担が大きかったから」といった理由を大きく引き離して、「高齢だから」という理由が第一位になっている(図表1)。 |
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また、倒産時の年齢と再起業意思の関係をみても、倒産時の年齢が高くなるにつれて再起業の意思を失う割合が高くなっている(図表2)。年齢が高くなるにつれて、肉体的に無理がきかなくなることや、年金の受給などによってあえてリスクを取らずとも生活できるためチャレンジ精神が失われることなどが、主たる理由であると思われる。 |
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わが国と異なり、米国では一度失敗しても再起に成功する経営者が多いと言われる。その理由として破産法などの制度的違いがよく指摘されるが、実は日米での倒産時点の年齢の違いも少なからぬ影響を与えているとみられる。倒産企業に対する調査によると、日本の倒産経営者の年齢構成は、50歳台が40.3%、60歳台が47.2%と50歳台と60歳台が圧倒的に多い(東京商工リサーチの調査)。一方、米国では倒産経営者の平均年齢は46歳となっている(米国中小企業庁の調査)。日米間には10歳以上の違いが存在しているわけである。このように、米国では倒産時点の経営者の年齢が若いことが、活発な再起につながっている面があることが分かる。 |
若年層の創業を促す仕組みづくりが重要 何事にも失敗はつきものだ。企業経営でも失敗して初めて学べることは多いはずである。そうであれば、失敗によって通常では得がたい経営上の経験を得た経営者が再起しやすい環境を作ることは、国民経済的にも望ましいことと思われる。 そのためには、失敗した場合にほとんどの財産を失ってしまう現行の破産法制や融資方法に改善の余地は残っているだろう。しかし、それに加え、若年者の創業をこれまで以上に活発化することもまた重要であると思われる。若くして創業したならば、不幸にして数年後に倒産の憂き目にあったとしても、依然として再起が図りやすい年齢であろうためである。米国では、マイクロソフト、デル、ヤフーなどにみられるように、20歳代で創業する人が大勢いる。一方、わが国の創業者の平均年齢は約40歳(国民生活金融公庫総合研究所の「新規開業実態調査」)であり、米国とはかなり隔たりがある。開業年齢をせめて5年でも若返らせることができるならば、再起を目指す経営者もかなり増加しよう。若年層の創業を活発化させることは、創業率を高め若年層の失業率の改善にもつながると同時に、再起できる企業も増やすことができるという、まさに一石二鳥の効果がある。そのためには、創業の最も大きな障害である資金調達の困難を緩和するなどの工夫が求められることはもちろんだが、サラリーマンではなく創業者を目指す青少年が増えるように、若い段階から創業へのチャレンジ精神を醸成させるような学校教育の改善などの取組みも重要なことではないかと思われる。 |
(2003年06月23日「エコノミストの眼」)
小本 恵照
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