2003年02月01日

分社化と企業収益に関する実証分析

小本 恵照

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  1. 従業者50人以上かつ資本金3000万円以上の会社(2万6713社)を調査対象とする経済産業省の「平成13年 企業活動基本調査報告書」によると、2000年度末時点で、全体の44.1%の企業が少なくとも1社の子会社あるいは関係会社を保有しており、今や日本企業の多くがグループ経営を行っていることが明らかとなっている。しかし、グループ経営の内容、言い換えれば分社化の内容は、企業によって大きな違いがみられる。2001年度の売上高でダイエー(2.5兆円)を上回るイトーヨーカ堂(3.3兆円)の連結子会社数が53社に止まるのに対し、ダイエーが133社の連結子会社を保有していることなどがその一つの例である。

  2. 本稿は、単体決算情報と連結決算情報が同時に入手できる日本固有の会計制度の利点を活用することで、企業の分社化の程度(分社化度)を測定し、分社化度の違いが企業業績に与える影響を考察するものである。分析は、株式を公開している全企業を対象に、新会計基準が導入された2000年3月31日から2002年3月31日までの9195社のデータを収集することによって行った。

  3. 分析結果によると、まず、分社化度の測定については、「子会社数ベースの分社化尺度」と「親会社からみた分社化」という2つの見方があることを提示し、日本企業の分社化度を計測した。前者は連結子会社数を連結売上高で基準化したものであり(単体決算のみの企業はゼロ)、後者は連結売上高に対する単体売上高の比率である(単体決算のみの企業は1)。それによると、日本企業の分社化度はそれほど大きなものではなく、高度に分社化を進めている企業は一部に止まることが明らかとなった。しかし、海外企業との比較では、日本のトップ企業の分社化度はグローバル展開している海外企業の分社化度を上回っている可能性がある。
    次に、分社化度と企業業績の関係については、企業は経営環境の変化に必ずしも敏感に反応するわけではないとの理論的・実証的結果を踏まえつつ、分社化度の違いが企業業績に異なる影響を与えるとの認識に立って、パネルデータによる計量的分析を実施した。なお、推定に当っては、分社化度の水準によって、分社化度の違いが企業業績に与える影響が異なる可能性を考慮した。それによると、「子会社数ベースの分社化尺度」は、分社化の程度が一定限度を越えると分社化の推進は企業業績を悪化させることが明らかとなった。ただし、繊維業のように本業が衰退して多角化が効果的な戦略となっている一部の業種では、分社化を進め続けるほうが企業業績の好転につながることが明らかになった。「親会社からみた分社化」については、事業の大半を企業内部に止め、事業のごく一部を分社化するのが企業業績にとっては望ましいことが明らかとなった。分社化を進めるにつれ本社機能の発揮が重要となってくるが、これまでの日本企業の行動を見る限り、本社機能が十分に発揮できていないケースが多いことを、今回の結果は示していると考えられる。

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