2002年09月25日

退職給付税制改革に関する試論 -働き方に中立で公平な老後準備への優遇策の検討-

臼杵 政治

松浦 民恵

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1.
わが国の退職給付(一時金・年金)税制をみると、三つの問題を抱えている。第一は一時金やさまざまな年金制度の間のアンバランスである。例えば、企業年金の加入者は退職所得控除と公的年金等控除などの二つを利用できるのに対して、企業年金に入っていなければ退職所得控除しか利用できない。

2.
第二に優遇税制が長期雇用の正社員を念頭に置いている。そのため、パート労働者・転職者や退職給付の給与上乗せ(前払い)を選択した従業員が老後の準備をする際には、優遇税制を活用しにくい。シミュレーションによると給与に上乗せされた前払い退職給付から貯蓄した場合の60 歳時点の税引後受取額は、退職時に一時金を受け取った場合より23%も目減りする。

3.
第三に老後の生活の糧であることを理由にしているにもかかわらず、退職所得控除額などが平均的な支給実態をもとに決められており、老後の生活にどれだけ必要かが考慮されていない。

4.
制度の創設時からみられたこれらの問題は、雇用慣行の変化や退職給付制度の多様化が進展したことで、この数年より重要な課題となりつつある。雇用・報酬形態や制度の選択に中立で公平な退職給付税制を早期にうち立てる必要がある。

5.
見逃せないのは公的年金財政の逼迫により、企業年金など私的な老後準備の役割が高まらざるを得ないことである。十分な準備をするためには、税制上の支援が欠かせない。具体的な優遇策として、(1)拠出された掛け金と積み立てた資産の運用収益を非課税とし支給時に課税する税制、(2)拠出された掛け金と運用収益には課税するものの掛け金に補助金を与える税制、の二つが考えられる。

6.
前者には逆進性の問題があり、後者は補助金を与えることに抵抗が強いという問題がある。両方の長所を活かすため、2002年からドイツで創設された補足的老後保障のような組み合わせも一案となろう。

7.
いずれの税制をとる場合も、あらゆる制度に共通した年間の拠出枠を設け、企業年金の掛け金拠出がその上限に達しない部分について個人での掛け金拠出を認める。また、使い切れなかった拠出枠は翌年以降への繰り越しを認めるべきである。それにより、支給時課税にともない退職所得控除が廃止されることによる不利を軽減できる。

8.
拠出枠については、老後の平均的な生活を送るのに必要な額を目途とすべきである。シミュレーションによると、2000年改正による厚生年金の水準を前提にすれば必要な拠出額は毎年50万円となり、報酬比例部分の1割カットを想定しても55万円で足りる。

9.
標準的な世帯を想定すると、毎月40万円程度の拠出であれば、拠出や運用収益を非課税とする税収減と支給時に課税することによる税収増が相殺される。拠出が50万円~55万円になると差し引き税収は減る。しかし、実際には拠出枠が100%使われないことなどを考慮して50万円前後を目途に拠出枠を調整すべきであろう。

(2002年09月25日「ニッセイ基礎研所報」)

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