2002年02月01日

家計の資産選択におけるリスクテイク

石川 達哉

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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  1. 家計の資産選択に関して、過度にリスクを避けて安全性を偏重するのが日本の家計の特質であるかのように言われることが多い。実際に、金融資産残高の内訳を国際比較すると、日本の家計における現金・預貯金の割合の高さと株式の割合の低さはきわだっている。金融商品の選択基準に関する意識調査においても、過去25 年間、日本の家計に最も重視される基準は「安全性」であり、次が「流動性」、その次が「収益性」の順となっている。
     
  2. しかし、住宅や土地など実物資産も含めた総資産を対象に議論すると、日本の家計が安全性に偏向した資産選択を行っているとは言えない。住宅・土地の価格変動リスクは十分に認識されているが、総資産の半分は実物資産が占めている。株式と実物資産をリスク性資産とみなして、総資産に占めるリスク性資産の割合を国際比較すると、日本・米国・英国の差はほとんどない。
     
  3. 年収に比べて住宅・土地が高価な日本においては、家計は持家取得資金の半分を借入に依存し、住宅ローンを中心とする債務の保有が金融資産の中での現金・預貯金に対する強い選好につながっている。既存住宅や土地の流動性が乏しい現状で多額の負債を保有する以上、残りの資産は安全性と流動性を重視せざるを得ないからである。
     
  4. 以前のようには土地が有利な資産とみなされなくなったにもかかわらず、「持家か、借家か」の選択(志向)に関しては、約8割の人が持家志向を示している。その背景には、持家を代替し得る広くて質の良い借家の絶対数が不足しているという住宅事情がある。
     
  5. 以上を踏まえれば、金融資産における現金・預貯金に対する選好は、既存住宅や土地の流動性の低さと持家を代替し得る良質な借家の欠如によって、強められたとものだと言える。言い換えると、中古住宅や土地の流通性が高まり、良質な借家が十分に供給されれば、家計の居住選択や消費・貯蓄計画の自由度が増し、金融資産選択におけるリスクテイクの余地も広がるであろう。住宅・土地の取得・保有に関する税制の見直しも含め、中古住宅市場、および、借家市場の活性化に向けた政策的取組みの強化が望まれる。
     
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