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- 企業の環境格付(試論2) -「ニッセイ基礎研・環境経営インデックス」の提案-
1.
本稿では、環境負荷データと財務データの関係に着目した「環境効率」の概念を応用した新たな環境格付け手法である「ニッセイ基礎研・環境経営インデックス(NEMI)」を提案する。昨年6月(「ニッセイ基礎研 所報」2000年夏号)の筆者による「企業の環境格付け(ニッセイ基礎研方式Ver.1)」を発展させたVer.2としての位置づけとなる。
2.
わが国で最近になって「環境格付け」が注目されるようになった背景には、改善の兆しが見えない環境問題の深刻化があるが、企業経営の視点からみると、6つの連鎖的要因がある。
(1) 環境問題の質的・構造的変化(産業公害から地球環境問題へ)
(2) 環境政策の経済的手法へのシフトがもたらす「市場のグリーン化」
(3) 「環境」という競争条件と評価基準の出現による「環境淘汰」のはじまり
(4) 環境経営へ転換し環境経営をアピールする企業の増加
(5) ステークホールダーの企業評価ニーズの高まり
(6) 環境面に着目した企業評価の必要性 → 環境格付け
3.
欧米およびわが国における環境(社会的責任)格付けの現状を概観すると、財務パフォーマンスの格付けとは異なり、多様な評価視点(尺度)がある。「環境マネジメントパフォーマンス」と「環境負荷パフォーマンス」を評価尺度とするものが多い。「環境リスクマネジメント力」や「持続可能性(サステナビリティ)」を尺度とするものもある。またWBCSDは「環境効率」を提唱しているが、本稿の提案はこの概念をもとにしている。
4.
ニッセイ基礎研・環境経営インデックス(NEMI)の算定には、企業の財務データとバウンダリーが一致する環境負荷データの開示が不可欠である。それゆえ、NEMIの試算に先立ち、製造業を中心に業種別の環境負荷データの開示状況を分析した。特に、OECDの推奨する「拡大生産者責任」の思想に基づき、生産段階だけでなく、下流の輸送段階、使用・消費・廃棄段階に分けて現状を分析した。
5.
企業の環境評価(格付け)においては、環境経営の目的達成のための“手段”とその結果である“成果”を峻別する必要がある、というのが基本的な問題意識である。それゆえ、企業活動が地球資源や地球環境に依存する以上、「どれだけの資源やエネルギーを投入して、どれだけの製品やサービスの経済価値を作り出したのか?」あるいは「どれだけ外部へ環境負荷を排出することで、どれだけ収益を生み出したのか?」という問いに対する答えが、環境格付けの評価対象となると考えられる。環境効率の概念に基づき、この考え方を具体化したものが本稿で提案するNEMIである。
6.
NEMIの定義式は以下のとおりである。
n EEIi
NEMI = Σ ai ―――――――
i 平均EEIi
n ai
= V Σ ――――――――――
i EPIi・平均EEIi
ここで
個別環境負荷の環境効率 EEIi = V/ EPIi
EEI指数 :EEIiを業界平均EEIで割った指数
V : 経済価値(売上高もしくは営業利益)
EPIi: 個別環境負荷の量(環境負荷の排出量)
i : 採用する個別環境負荷の序数(今回はn=5としたが、任意に設定できる)
ai : 各EEI指数のウエイト
定義式から、「売上高NEMI」は“環境負荷の価値集約度”を表わし、「営業利益NEMI」はその集約度に営業利益率が掛けられた“環境負荷の利益集約度”を表わしている。EEI指数100が業界平均を示し、結果として環境経営インデックス(NEMI)も100が標準的な水準を示すものと考えられる。なお、NEMIは各EEI指数を加重平均した値であるため、個別環境負荷のEEIによる企業間格差の要因分析も可能である。
7.
実際に製造業の個別企業の開示データをもとに、NEMIを実験的・暫定的に適用してみた。具体的には、素材産業から化学業界(4社)、加工組立業からトイレタリー業界(2社)、ビール業界(4社)、電機業界(3社)を選択した。
8.
NEMIの実験的適用の結果は以下のとおりである。
・化学業界:営業利益NEMIは環境効率性と収益性の差異から企業間のバラツキが大きい。
・トイレタリー業界:営業利益NEMIはデータ開示度と収益性の差異から大幅な格差がついた。
・ビール業界:売上高NEMIはほぼ同水準であるが、営業利益NEMIの格差は大きい。
・電機業界:営業利益NEMIは、売上高NEMIに比べて格差が縮小している。
9.
NEMIの実用化に向けた課題は以下のとおりである。
(評価手法として)
・業種別の企業の責任範囲の見直し
・環境問題の代替指標として採用すべき環境負荷の見直し
・NEMI算定のための環境問題間のウエイトの見直し
(企業のデータ開示について)
・財務データと環境負荷データのバウンダリー(対象範囲)の一致
・排出量を重量(トン)で表記するための単位の統一
・輸送段階の環境負荷の把握と開示の認識の必要性
・使用・廃棄段階におけるCO2や廃棄物の排出量の考え方の統一
・PRTR対象物質排出の全重量の開示(年間1トン未満は報告の義務がない)
(2001年06月25日「ニッセイ基礎研所報」)
川村 雅彦
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