1999年12月25日

短期景気指標としてのGDP統計 -生産アプローチによる補完-

日本大学経済学部教授 小巻 泰之

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1.
GDPはマクロ経済活動を包括的かつ整合的に表現できる唯一の統計である。また、利用者側のGDPに対する理解は景気そのものとなっている場合が多く、政府でも政策決定の判断材料としてGDP統計を重要視している。しかし、景気指標としてのGDP統計は、特に短期的な景気判断の場合、速報性に乏しく、また計数も支出面中心の四半期系列にとどまるなど留意が必要である。
2.
GDP統計は、国際的に直接比較が可能な統計として作成されていることから、幾つかの帰属的な計算が含められている。また、GDP統計は、その包括性ゆえに高度に推計された2次統計であり推計における誤差も小さくはない。さらに、GDPの統計は、推計精度を向上させるため、数回の改訂を行っているのである。したがって、現在のようなゼロ近傍の局面でプラス成長かマイナス成長かを議論する場合、利用者側ではGDPを含めた統計に対する正確な認識をもち、またサーベイ調査等の他の統計を併用した景気判断が求められるのは言うまでもない。
3.
GDPの水準を予測できる月次指標が開発できれば、GDP統計の速報性を補完し、短期景気指標としての有用性を高めよう。なお景気指標の推計では生産アプローチによる作成が有効ではないかと考える。
1) GDP速報値はGDE(支出面)推計が中心に位置づけられている。しかし、推計精度でGDP(生産面)と大きな差異はなく、基礎統計では供給側の統計の方が早期に公表される点から、生産アプローチの採用はQE公表の早期化につながる可能性が高い。供給側の統計を基礎統計とした推計方法は、イギリス等の統計作成当局(企画庁[1999])でも、その有用性を評価している。
2) 利用者側のGDPに対する理解は景気そのものとなっている場合が多い。しかし、国内には景気を包括的に判断できる月次指標がなく、GDPの水準を予測可能な月次ベースの景気指標の有用性は高いと判断できる。月次化の点でも、支出アプローチは固定資本形成関連の統計の点で早期化が困難であり、景気循環に対して敏感に動く供給サイドの情報がより反映される生産面アプローチの有用性は高いとみられる。
3) 短期的な景気変動は最終需要面の影響が大きい。GDE(支出面)では、帰属家賃等などの擬制計算された需要や市場価格の明確でない政府サービス等を除いた数値を別掲するなど、景気指標として有用性を高める方法も一考である

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