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経済活動において、将来に対する予想(期待)は重要な役割を果たす。消費者の消費・貯蓄行動や企業の設備投資行動は、将来の生活や企業業績に対する何らかの予想を前提に決定されている。バブル現象は、資産価格の上昇予想によって発生する。また、景気の予測を行う際にも、将来予想の分析は不可欠である。日銀短観や消費者心理調査などは、アンケート調査によって将来に対する予想を数値化している。
ところで、景気予測における予想数値の活用方法をみると、もっぱら、調査時点での実績や来期予想、前回調査時との水準変化に焦点が当てられている。これら分析が重要なことは言うまでもないが、ここでは予想と現実のズレに注目してみたい。予想と現実のズレが、経済活動の見直しを通じ、経済変動の原因となることが少なくないと考えられるためである。
予想のズレと経済活動の関係を、日銀短観の設備の過不足感と設備投資の関係でみてみよう。まず、3か月先の設備の過不足感で示される予想水準と設備投資の変化を比較すると次ページの図1となる。予想水準の変化と設備投資の伸びは当然ながら、概ね連動している。しかし、設備投資の転換点と予想水準の転換点を比較すると、予想水準のほうがむしろ設備投資に遅行していることが多いようである。足元で過剰感(不足感)が強まっていても、現実の設備投資は既に回復(減少)に向けて動き出していることが多いのである。
一方、予想水準ではなく、予想と現実のズレと設備投資の動きをみたものが図2である。予想のズレは、3月前に予測した現時点の過不足感を、現時点における現実の過不足感と比較したものである。3か月前に予想したほど過剰感がない場合や不足感が強まった場合を「上方修正」として示している(「下方修正」はその反対)。それによると、上方あるいは下方への持続的な予想のズレが、「消滅もしくは転換」する頃に、設備投資に変化が生じているようにみえる。予想のズレは、設備投資の変化にかなり一致した動きとなっているのである。
設備過剰感(不足感)が残っていても、3か月前に予想したほどの過剰感(不足感)でないならば、設備投資は増加(減少)方向へ転換することを意味している。これには、次のような理由が考えられる。単純な能力増強投資については、設備過剰感が強ければ予想の上方修正もあまり影響を与えないだろう。しかし、研究開発、製品開発、新事業開拓などに関する設備投資については、予想のズレによって将来の経営環境に対する認識に変化が生じる、それまで温めてきた投資案件実行の決断を促す重要なキッカケとなることが少なくないと考えられるためである。
足元、設備投資は大きく低迷し、予想のズレも下方修正が続いている。来月早々には、日銀短観の6月調査の結果が発表される。予想のズレのみが経済活動の変化を促すものでないことはもちろんだが、予想の水準やその変化だけでなく、予想のズレにもこれまで以上に注目して調査結果をみてみるのも面白いのではないだろうか。
(1999年07月01日「経済調査レポート」)
小本 恵照
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