1999年06月25日

機関投資家によるコーポレート・ガバナンス

橘木 俊詔

深尾 光洋 慶応義塾大学商学部教授

ニッセイ基礎研究所(ガバナンスWG)

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 わが国の金融機関は、株主として有数の地位を占めている。株式分布状況調査(全国証券取引所協議会、98年3月末)によると、金融機関(銀行、信託、生損保、投信、年金など)の上場株式の保有時価総額は129.8兆円で、市場全体の42.1%に達している。
コーポレート・ガバナンスの視点から、金融機関の株式保有を見ると、株主として有数の地位を占めているにもかかわらず、その関与は小さく、いわゆる「サイレント・パートナー」としての役割を果たしてきた。一方、金融機関は、債権者の立場から企業運営に積極的に関与してきた。いわゆる「メインバンク」制はわが国の効率的な企業システムを支える特徴の1つとして理解されていた。
しかし、バブル崩壊後、金融機関の株式保有リスクが顕在化した。また、大量の不良債権の発生、粉飾決算の発覚や総会屋への利益供与事件など、不祥事が頻発することにより、わが国企業システムそのものに対する不信感が増大する状況となっている。
さらに、企業活動の国際化、資本市場の自由化・国際化による内外資本の流出入にともなって、グローバル・スタンダードによるコーポレート・ガバナンスへの関与の必要性が高まっている。金融機関は、「株主」としてコーポレート・ガバナンスに関与するように、強く迫られているのである。
本稿は、「金融機関(=機関投資家)が、どのようにコーポレート・ガバナンスに関わって行くのか」について、いくつかの提言を含めてまとめたものである。その構成は、まず第1章「金融機関とコーポレート・ガバナンス」で、われわれの問題意識をまとめている。第2章「株式持ち合い」、第3章「株主権行使の現状」、第4章「株主総会」、第5章「情報の利用」は、わが国におけるコーポレート・ガバナンスの現状と問題点の指摘を試みている。そして、第6章「われわれの提言」では、わが国機関投資家がコーポレート・ガバナンスに関わる際に、投資先企業とともに取組み、改善すべき方向・方策を考えている。
わが国のコーポレート・ガバナンスについては、さまざまな改善すべき点があると思われるが、特に「われわれの提言」では、
・ 情報開示の質的な充実
・ 取締役会の経営監視機能の強化
・ 株主総会の開催分散化と機能強化
・ 機関投資家による株主議決権の行使
といった4つに焦点をあて、具体的な方策を検討している。
機関投資家(株主)の、コーポレート・ガバナンスへの関与を強化することが、受託者責任を果たし、運用効率を上昇させる観点から必然と考えられる現在、当レポートに何らかの有益な示唆が含まれていれば幸いである。

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