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18世紀、19世紀、 あるいは20世紀のいずれの世紀交代期においても、 社会秩序や道義心あるいは倫理秩序の維持をはかる力が一時的に緩んで、 いわゆる世紀末の乱脈を引き起こしてきたことはよく知られている。 しかしながら、 確かに幾多の混乱や無秩序をもたらしたことも事実であるが、 今までの世紀末においては、 国の国家意識の興隆とあいまって、 社会全体が無秩序の極みに陥るということはなかった。
水面下でくすぶる地域紛争
ところが今当面している事態は、 単に世紀末の時代の交代というよりも、 千年 (millennium) 秩序の交代を意味しているのかもしれない。 電子機器に関するいわゆる2000年問題も誰の目にも明らかなような形では克服されてはいないようである。 今世紀はレーニンの赤色世界革命で始まり、 ロシアの終焉で終わろうとしている。 中国の将来を誰か正確に予測できるであろうか。 まさに大きな未知と混乱が待ち構えている状況である。
このような大きな問題が残されているにしても、 日常的な世界情勢は表面的には大きな混乱もないように見受けられる。 しかし、 立ち入って現実を見ると、 ロシアの社会的崩壊は歴然としており、 その有する原子力の管理は危険極まりない状況にある。 ロシアの場合、 社会経済の基礎をなす社会秩序そのものが崩壊の危機に瀕しており、 巨大な軍事力が自壊作用のままに放置されているということは実に恐るべきことである。 米国のかつての強い指導力のようなものが今や存在せず、 ロシアの崩壊ひいては世界秩序に対する脅威を有効にコントロールする方法や組織が見出されていない。
戦後、 世界秩序の確立のためには、 安全保障理事会の強化とそのための国際的協力が不可欠のものであった。 米ロの核兵器競争は小康を得たが、 その間、 世界が営々として進めてきたアラブとイスラエルの平和樹立、 アフリカ民族主義の対立の緩和は今や往年の力がなく、 アラブとイスラエルの対立除去については、 折角の方式すら危ぶまれる状況である。 中東における露骨な民族対立は、 ますます拡大しそうである。 東南アジアにおいては、 ようやく経済混乱が静けさを迎えるところまで来たけれども、 更にそれを一歩進めて、 平和と経済繁栄の基礎を打ち立てるまでには、 なお道遠しの感がある。
世界情勢に疎い日本の政策論議
ラテンアメリカについては今後事態の改善も強く期待されるところであるが、 いずれにせよ、 世界のどの地域を取り上げてみても、 平和の基礎が固まりつつあるとは言えない。 むしろユーゴスラビアのコソボ自治州の問題などは、 いつ火を吹くか分からないともいわれている。 このように世界を取り巻く情勢は非常に緊迫したものであり、 それぞれの国の間で一刻も早く安定の基礎を築かねば、 世界全体が大火に陥る可能性がある。
ひるがえってわが日本について見れば、 国をあげての関心事が経済の復興に限られていて、 このような世界情勢の危機を沈静化させるための積極的努力というものが、 大きく取り上げられているようには見えない。 それどころか、 北朝鮮のミサイルの発射という狂気の沙汰すら予期しなければならないというのに、 日本の政治・経済の政策が緊迫した事態に対して、 具体策を生み出そうという気配がない。
困難な事態の解決を避けて問題を先送りするのは、 わが国の政財界の弊風といわれて久しい。 日本経済の危機がいわれて既に10年余りの歳月を経ているが、 その間に日本経済の面目を一新したという施策は全く見られない。 世界の政治経済情勢の切迫した危機を前にして、 日本はやりかけて中途で放置しているもろもろの政策について、 今一度真剣に反省して、 進めるべき政策については不退転の決心で臨むべきであろう。 そうでなければ、 日本は世界の趨勢から取り残された平和ぼけの国に堕してしまう心配がある。 円の国際化も大事かも知れないが、 その前に日本が信頼される自立国家になることが大事だと思う。
(1999年02月25日「基礎研マンスリー」)
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