1997年04月25日

退職給付会計のあり方と資本市場への影響

田中 周二

佐々木 進

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1.
日本の現行の退職給付(退職金・年金)会計の問題点として、退職金負債の過小評価、年金債務のオフバランス、退職金から年金制度への移行時における費用の二重計上の3つが挙げられる。そして、これらは、「年金債務をどのように認識し、退職金債務とどのように調整して測定すべきか」という問題に帰着するであろう。
2.
投資家に有用な情報を提供することを企業会計の第一義的な目的とするならば、退職金・年金を統合した上で、発生主義、かつ現在価値ベースの評価方法である予測単位積増方式の採用が望ましい。また、その採用によって、従業員の受給権保護も間接的に達成されるものと考えられる。
3.
年金財政方式の一つである予測単位積増方式は、将来の経済的仮定(基礎率)の想定次第で、退職給付債務の評価額が大きく変化する特徴をもっている。特に、超長期にわたる退職金・年金支払いのキャッシュフローの割引計算に用いる割引率の選択は重要である。従って、国債のイールド・カーブに対応した、信頼性の高い利率を割引率として選択すると同時に、選択の根拠と退職給付債務のデュレーション(金利感応度)を併せて開示するのが望ましい。
4.
そのような時価主義を採り入れた新しい退職給付会計基準の導入は、一時的に株価のマイナス要因になるかもしれない。しかし、投資家による企業の経済的価値評価が一層充実する結果、資本市場の効率的かつ適正な資源配分機能が強化されることになろう。一方、企業の財務戦略において、将来の事業投資や資金調達の制約にならないように、退職金・年金負債を含む負債額全体の適切な見直しが不可欠になろう。

(1997年04月25日「ニッセイ基礎研所報」)

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