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規制緩和、 行政の簡素化の声が政治家やエコノミストの間だけでなく、 一般国民の間でも世論化している。 しかしながら、 現行のもろもろの規制や制限を撤廃した後の社会秩序をどのようにして維持すべきかについては、 これといった論議がなされていないのははなはだ残念である。 やや部分的であったとはいえ、 試みに金融と金利の自由化が実施されたことがいわゆるバブル経済の混乱を招来したことには議論の余地のないことである。 まさに学者のいう"市場の失敗"の典型的なものであった。 しかるにその失敗の起因や矯正策についての十分な論議もないままに、 再び規制撤廃して自由奔放に、 市場万能主義に基づき経済運営すれば、 再び日本経済に黄金時代が戻ってくるかのような議論が公然と行われている。 経済の自由主義やそれに繋がる民主主義が当初予想されていた成果を上げていないのは、 必ずしも日本だけのことでなく、 欧米諸国にも広く見られることである。 むしろ経済や政治の実情は、 市場主義や民主主義が常態を失し、 時に弊害を著しくした時に、 それをいかに救済、 対応するかの歴史であったといえよう。
英米の法体系との違い
日本の法津の建前はできるだけ数の少ない条文で社会現象を取り仕切ろうという考えに立っている。 法津に明記されたことだけが公然と許可され、 明記されていない事柄については、 その多くが行政当局の判断や指示に任されてきた。 これに対して英米の法制は、 法文により明記された規制や禁止事項以外は自由に行動できる。 いわば法津はnegative listの感を呈している。 日本の法制は、 論理的な合意を有する明文規定の解釈を通じて、 社会的事象を考慮した行政の規制が主として働いてきた。 しかも、 その解釈は時の政府による有権的なものであった。 従って、 諸々の社会現象に対する細々とした規制や禁止事項は盛られていなかった。 しかし、 今伝えられるような規制のない原則自由の法社会を目指すとすれば、 混乱や権利の乱用を防止するため、 予め明示的に禁止すべき事項の列記や判例のようなものが必要になってくる。 日本では、 これらが著しく不十分であり、 司法の分野の発達が著しく跛行的であるといわねばならぬ。 対応の困難が予想されるところである。
急がれる法の整備
規制の緩和によって、 従来は規制により管理されていたものが、 数多く司法の判断に移されることになろう。 例えば、外国為替及び外国貿易管理法の全面自由化が実施された時、 新たに起こりうる問題の処理に対し、 今の法体系で十分かどうかは大きな課題のようだ。 日本では、 米国のような弁護士と訴訟が横行するような社会に対して、 強い嫌悪感と拒否反応があることは事実である。 しかしながら、 必要な禁止事項が未整備の状態で、 経済活動に対する諸々の規制が完全撤廃された時には、 法による決着の必要性は膨大なものとなるだろう。 にもかかわらず、 規制緩和について政治家やエコノミストの声のみ大きく、 新時代に対応する健全な社会的秩序の維持のため、 現状の無防備さを訴える司法関係者からの動きが見えないのはどうしたことだろう。
あるいは巷間いわれるように、 所詮規制緩和や行財政改革というのは現下の政情ではすぐには現実化しないと考えられて放置されているのであろうか。 気になる事柄である。
(1997年03月25日「基礎研マンスリー」)
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