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10月早々に開催された世銀・IMFの年次総会に出席する機会を得た。その時の感想について述べたい。会議の成果は既に新聞等に報道されるごとく、
成果は以上のようなことであり、一応世界経済の平穏化に対応するような期待通りのものであった。
これまでの20年余にわたる会議参加を通じて受けた印象は、世銀・IMFといった国際機関の世界経済に果たす役割が漸次低下していることである。この総会が契機となって、かってのように国際金融市場が大きく反応するといった現象は見られなくなった。参加メンバーについても、かってアフリカ大陸の将来が注目された時には、アフリカの代表団が民族衣装を着て会議を圧倒したような風景や、ラテンアメリカの国々が世界の資金を引きつけ、それを狙って大勢の人々で賑わったような華々しいと同時に騒々しい雰囲気は消えていた。むしろ、周りは淡々と年中行事をこなしていたように見えたのが印象的だった。かって、ケネディやニクソン、レーガン大統領の演説を聞くために会場が溢れたような賑やかさも同時に消えて、今年はゴア副大統領の挨拶に留まったことも印象的である。
世銀やIMFが戦後の世界経済の困難を克服し、経済発展を支援する強力で輝かしい存在とみなされた時代も昔のものとなり、今は情報中枢の国際機関として、世界の経済、金融問題に取り組む、いわば平常な状況になっている。
通貨改革についても、かつてのSDR創設時のようにIMFが強い指導性を持って世界の通貨制度をリードしていくのではなく、EUの統一通貨の出現の可能性と、それが及ぼす国際通貨安定への影響分析が関心の中心であり、アジア太平洋圏が指導的な通貨なしで、繁栄を続けていけるかといった地域的な問題が関心の的になっているようであった。経済発展についても、世銀を通じた世界的な取り組みは必ずしも成果を上げられず、むしろ地域開発銀行中心の経済開発の方が有効である様相を呈している。また、IMF・世銀に対する主たる資金提供国である米国や欧州の国々は、世銀やIMFの役割拡大を先延ばしにしていく傾向が顕著であるようにみえた。
日本は伝統的にその外交を国際機関の効果的運営に依存する政策をとってきた。しかし、この総会にみられるような状況を前にしては、日本の通貨制度の在り方や援助政策の推進にあたって、確固たる独自の思想や哲学を持たない限り、混迷する世界の大きな流れの中で、徒らに漂流することになることを痛感した次第である。
(1996年11月01日「調査月報」)
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