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■見出し
はじめに
1.ドイツの社会保障制度
2.ドイツ社会保障制度の構造的問題
3.社会保障改革~「節約パッケージ」
4.今後の展望
■introduction
「カリブ海で3週間のウアラウブ(Urlaub、休暇)」・・・・・・ドイツの旅行代理店の店頭には、このような張り紙がずらりと並ぶが、その中から1週間以内のツアーを見つけるのは容易なことではない。ドイツでは有給休暇は通常年間30日、未消化分は会社が買い取らなければならないので、完全消化が原則となっているからである。その為、1週間より短いツアーはあまり売れないのである。
ドイツではこれまで、市場経済と社会的公平とのパランスを国家が保証する「社会的市場経済」が有効に機能してきた。労働者保護意識も高く、「高福祉国家」として諸外国に紹介されている。昨年から新たな社会保障制度である公的介護保険を導入しており、介護供給体制の充実等、超高齢化社会に向けて、日本が見習わなければならない点が数多くある。
しかし個々に観察してみると、「高福祉」を超えて「過剰福祉」と思われる点がいくつかあり、特に「働くことができない」時の為の給付が「働かない」ことに濫用されていると思われる現象がみられる。景気低迷と企業の人員削減により、ドイツの失業率は戦後初めて10%を突破、人口8100万人の国が400万人の失業者を抱えることとなったが、「働かない」ことは失業率の高止まりを意味し、失業保険自体の収支悪化、公費負担増を招くとともに、他の社会保険制度の機能低下(収入保険料減、給付増)をも引き起こす。1996年の連邦政府の雇用関連予算の赤字は125億マルクと見られている。公的年金制度においては、予想される99億マルクの赤字のうち、失業の増加に起因するものが約半分(46億マルク)と、失業の影響は大きい。
危機惑を強めたコール政権は今年1月末に、2000年までに失業者の半減を目指す計50項目の「投資と雇用の為のアクションプログラム」を発表、4月末に同プログラムを具体化した広範な社会保障支出削減法案(通称「節約パッケージ」)を提出し、その大部分が9月13日に成立を見た。この「節約パッケージ」は、社会保障制度の根幹に関する改革とは至らないものの、過剰給付の削減、ならびに国民・企業の負担を軽減し、「社会的市場経済」の行き過ぎを是正していこうとする姿勢を歴代政権の中で初めて打ち出したことに意味がある。
本稿では、まずドイツの社会保障制度の特徴に触れた後、改革の背景・内容・方向性を紹介したい。
(1996年11月01日「調査月報」)
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