1996年08月01日

回復傾向は維持、96年度は2.6%成長に-1996年度改定経済見通し-

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<要旨>

日本経済は92~94年度にかけてゼロ%台成長が続いたが、95年度は下期に成長加速が起こり、2.3%成長となった。うるう年や政策要因の寄与もあるものの、民需が徐々に改善傾向をたどったのも事実である。「民需の自律的回復」には当面、景気支持的スタンスの経済政策が必要だが、政策の軸足を体質強化を目的とした構造改革へと移行させることが可能な状況になりつつある。基本的な重要課題は規制緩和をテコとした産業構造調整、不良債権処理を軸とした金融セクター再生、行財政リストラである。96、97年度は日本経済にとって正念場となろう。以下は4月5日見通し(以下、前回)を見直したものである。

  1. 景気は急激な円高を主因に95年4月以降、「中だるみ」となった後、10-12月期に「緩やかな回復傾向」が再開し、96年1-3月期には回復が明確化してきた。96年1-3月期の12.7%成長(実質GDP、前期比年率)は政策要因・うるう年要因を含んだカサ上げ数値だが、日銀短観(96年5月調査)での業況判断の改善傾向などを総合判断すると、現状が「政策需要牽引・民需低迷→政策需要牽引・民需回復」の段階にあるのは確かである。95年度実質GDP成長率も3年連続のゼロ%台から2.3%となった。景気改善の背景は、(1)円高修正下での企業収益改善、株価堅調、(2)95年9月の経済対策(14兆円)による公共投資増、(3)低金利政策による企業業績改善、住宅投資拡大、(4)携帯電話、パソコンなど情報関連の需要増、(5)震災復興需要-である。
  2. 今後、公共投資減少、消費税増税と財政抑制のマイナスはあるが、民間部門の調整進展等のプラスから、景気は弱さを抱えながらも回復傾向を維持できよう。
    プラス  :(1)企業部門は大幅設備調整は終了。損益分岐点比率も改善傾向・抵抗力が増加
                (2)雇用情勢は厳しいものの、家計部門の雇用・所得とも緩やかながら増加等
                (3)海外生産増等から輸出減・輸入増だが、円高修正で外需マイナス寄与はやや縮小
    マイナス:(1)財政政策が景気抑制気味
                (2)設備投資面で大きなプラス寄与を示してきた半導体関係需要の鈍化傾向
                (3)不良債権問題の処理には依然、課題が大きい
  3. 今後の景気は一本調子ではないが、徐々に民需の自律回復に移行する姿となろう。96年度上期は95年度下期の高成長の反動や公共投資減などから前期比で低めの成長率となるものの、下期は97年4月の消費税増税を見越した駆け込み需要等から前期比成長率はやや改善しよう。97年度上期は駆け込み需要の反動減、消費税増税のデフレ効果から再び前期比は低めとなるが、下期には成長率は回復しよう。
    (1)円レート106円(95年度96円)、(2)公共投資追加(災害復旧、基礎研究分野など0.7兆円)、(3)公定歩合据え置き(0.5%)-を前提に、96年度の実質GDP成長率は2.6%(前回:2.0%)と予測される。前回見通しに比し、環境面では為替レートの円安、需要項目別の動きでは消費、住宅投資、設備投資の堅調が成長率を上方改定した主因である。なお、97年4月の消費税率2%引き上げ(5%へ)を前提としており、駆け込み消費等は96年度GDPを0.1%程度押し上げると見込んだ。特別減税2兆円の継続も前提とした。
  4. 物価の鎮静基調は続くが、円高修正、景気回復傾向等から卸売物価、消費者物価とも強含みに転じよう。昨年一時期、デフレ懸念が強まったが、景気・物価両面から現在、懸念は薄れている。96年度は3年振りに名目が実質を上回る成長率となろう。
  5. 国際収支面では、海外生産増加等から対外黒字は93年度をピークに縮小してきた。経常黒字は95年度9.5兆円(名目GDP比1.9%)が96年度6.9兆円(1.4%)に縮小しよう。ただし、半期別には経常黒字額は96年度上期がボトムとなろう。
  6. 金融政策面では、緊急避難的措置は修正される可能性が高いものの、(1)民需の回復は力強くはない、(2)不良債権処理は依然大きな課題、(3)財政政策は景気抑制的となる公算が高い-とみられる中、基本的には低金利政策が維持されよう。短期金利低め誘導は解除、公定歩合は0.5%で据え置きとみた。こうした中、長短市場金利は強含み方向で推移しよう。
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